キューバ革命を推進した中心人物であるフィデル・カストロの伝記・評伝はこれまで邦文になったものだけでもかなりの数がある。その大部分はフィデルを賞賛、肯定するものであり、少数はフィデルの思想やキューバ革命の成果といわれるものの実態を批判するものであるが、本書は前者と言える彼に魅了されたフランスのジャーナリストが執筆したものである。親族や友人たちを含む多くの人々へのインタビューの成果を加え、そこから掘り起こしたエピソードも交えた、フィデル・カストロの生涯を追った大部のドキュメンタリーである。
フィデルの生い立ち、幼少時から死去の少し前までの足跡、人々との出会い、親族等との付き合いなど、日常の生活や出来ごとを詳細に綴り、珍しい写真が多数収録されていて、フィデルの生涯を知る上で有用な歴史的資料であるが、あくまでフィデルの伝記であって、キューバ革命そのものやソヴィエト連邦と米国の東西対立の狭間での外交や政治などの分析は行ってはいない。
〔桜井 敏浩〕
(神田順子・鈴木知子訳 原書房 2017年12月 上-390頁、下-380頁 各2,400円+税 上ISBN978-4-562-05453-4 下ISBN978-4-562-05454-1)
〔『ラテンアメリカ時報』2018年春号(No.1422)より〕