講演会のご報告「揺れ動くラテンアメリカ-特派員の現場から-」(2018年6月18日(月)開催) | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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講演会のご報告「揺れ動くラテンアメリカ-特派員の現場から-」(2018年6月18日(月)開催)

【日時】2018年6月18日(月)15:00~16:30
【場所】日比谷国際ビルB1会議室
【演題】揺れ動くラテンアメリカ-特派員の現場から-
【講師】田村剛 朝日新聞 国際報道部記者(前サンパウロ支局長)
【参加者】40名

田村記者は2014年9月から2018年3月まで中南米特派員としてサンパウロに駐在した。その間にリオ・オリンピック、ルセフ大統領の失脚、トランプ政権の登場等があった。本講演では、田村氏が2016年にコロンビアのゲリラFARC(コロンビア革命軍)の野営地に入って撮った戦闘員の様子、メキシコと米国の国境にある壁とその壁越しに話をする家族の様子、壁を越えて米国側に入った父と子を追跡した写真等々、文字だけでは伝わらない中南米のリアルな一面を知ることが出来た。

【1.2018年:選挙の年】
■今年は中南米6カ国における大統領選挙の年にあたり、既にコスタリカ、ベネズエラ、パラグアイで実施された。
■昨日(6月17日)、コロンビアで大統領選の決選投票が行われたが、前政権によるFARCとの和平合意内容に異議を唱えるドゥケ氏が当選した。
■ベネズエラの大統領選挙では、そのやり方に対し国際的な批判を浴びたが、昨年の制憲議会の発足以来、国民は完全に無力感に陥っている。

【2.コロンビアの情勢:FARCとの和平合意の行方】
■大統領選挙の結果、FARCとの和平合意の見直しを掲げたドゥケ氏が当選したことにより、今後の和平合意の先行きが懸念される。コロンビアのFARCとの和平合意は順調な経済成長と治安回復を背景に実現した。しかし、必ずしも世界のコロンビアに対するマイナスのイメージを変えるほどのインパクトになったとは言えない。

■FARCはかつて中南米最大のゲリラ組織と称され、最盛期には戦闘員2万人、国土の3分の1を支配していた。FARC対政府軍、FARC対民兵組織の戦闘により、死者25万人以上、住む場所を奪われた人は800万人に及び、地雷の被害者数は世界ワースト1といわれた。

■2016年9月にFARCの野営地に入り取材した。戦闘員の生活は朝5時起床、昼間は仕事を分担し、夜9時に就寝。戦闘員になった理由は貧しさで、FARCの掲げる「平等」に共鳴した。

■和平合意(2016年9月)は、直後の国民投票(10月)で僅差(50.2%対49.8%)で否決されたが、その背景にはゲリラに対する強い反感があった(ただし、被害を受けた地域では賛成の方がむしろ多く、都市部の反対が強かった)。

■ドゥケ氏の当選により、和平合意は見直される可能性がある。コロンビア社会が再び分断され不安定化するのではとの不安が残る。

【3.ベネズエラ情勢】
■ベネズエラはハイパーインフレと食料不足などで混乱状態に陥っており、コロンビアやブラジルなど近隣諸国に脱出する国民の数が急増している。

■5月の大統領選挙でマドゥロ大統領が再選されたが、経済・治安は悪化の一途を辿り、かつてチャベス(前政権)に熱狂した国民は無力感と絶望感に陥っている。最近ではデモをするエネルギーも無くなり、国を出た方がましと考える国民が大半のようにさえ見受けられる。

【4.メキシコ情勢】
■米国のトランプ大統領はメキシコとの国境(約3,200km)に壁を建設すると言ったが、壁はその前から存在していた。ティファナで見た壁は4~5mの高さ。壁を100%建設するには約2兆円かかる。テキサス州の国境周辺は私有地が3分の2を占めており、米政府は土地購入の必要がある。

■壁があっても不法入国の波は止まらない。「コヨーテ」と呼ばれる密入国ブローカーが、4,000ドルで越境、7,000ドルで越境+ロサンジェルスまでの車、1万ドルでパスポートの偽造を請負っている。米国を目指す理由は所得格差にある。

■メキシコから米国への不法入国者は減っており、グアテマラ、ホンジュラスといった中米からの不法入国者が増えている。

■不法移民イコール犯罪者ではなく、米国は景気の良い時には単純労働力として、また社会底辺を支える労働力として必要としており、こうした米国の需要がある限り不法入国はなくならないであろう。

■7月の大統領選挙では、政権交代の可能性が大きい。ペニャ・ニエト大統領のトランプ大統領に対する弱腰姿勢、治安の悪化などが現政権に対する不人気である。高い支持率を集めているロペス・オブラドールは、米国にあるかつてのメキシコの領土を取り戻す、富裕層に課税する、などと発言しており、1,100社を超える日系企業に不安感を与えている。

【配布資料】
なお、本講演の説明資料はラテンアメリカ協会のホームページに掲載される(会員限定)

「揺れ動くラテンアメリカ-特派員の現場から-」(PDF)

田村剛 朝日新聞 国際報道部記者 作成


田村剛 朝日新聞 国際報道部記者

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