講演会のご報告「変化する国際金融情勢の中で-アルゼンチン、ブラジル、メキシコの動向」(2018年7月6日(金)開催) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

講演会のご報告「変化する国際金融情勢の中で-アルゼンチン、ブラジル、メキシコの動向」(2018年7月6日(金)開催)


【日時】2018年7月6日(金)
【場所】中央大学駿河台記念館 4階 430号室
【講師】みずほ総合研究所株式会社 西川 珠子 上席主任エコノミスト
株式会社三井住友銀行 田中 泉 上席推進役(前ブラジル三井住友銀行副社長)
【参加者】約90名

【通貨安の逆風に耐えられるのか~中南米主要国経済の現状と展望~】(西川珠子氏)
◇アルゼンチン:アルゼンチンはマクリ政権の構造改革努力にも関わらず、ファンダメンタルズの改善が進まず、マクリ政権の政策運営への不信と相まって、アルゼンチン・ペソの売り圧力が急激に高まった。政府の為替介入や利上げ実施等、政策を総動員しても下げ止まらない状態だ。経常赤字は2017年にGDP(国内総生産)比-4.8%に急拡大し、資本流入は証券投資へ依存している。これがアルゼンチンの弱みになる。現政権は、2017年12月にインフレ目標引き上げ後すぐの利下げ、国際通貨基金(IMF)との金融支援合意後すぐに為替介入を停止するなど、一貫性のない金融・為替政策により国際的な信用を失った。ただし外貨準備高は戻ってきている。

◇メキシコ:7月1日のメキシコ大統領選挙では、既存政党への国民の不満が大きく影響し、新興左派のロペスオブラドール氏が当選した。議会選挙でも、上院下院共に左派連合が最大勢力となった。新政権の統治は未知数だが、財政縮小やエネルギー政策に影響が出る可能性はあるものの、ちゃぶ台をひっくり返すような可能性は極めて低いと見ている。ロペスオブラドール氏はNAFTA(北米自由貿易協定)を尊重すると述べるとともに、当選直後の電話会談でトランプ米大統領から「敬意をもって対応された」として、米政権との友好関係は築けるとの見通しを示した。

◇ブラジル:景気は2年連続のマイナス成長を経て3年ぶりのプラス成長に転じた。経常収支の改善は顕著だが財政再建は遅れている。10月の大統領選挙は混戦で有権者の多くが支持を決めかねている。7月20日~8月5日の各党大会で正副大統領候補、政党の連立動向が決まれば、目下のところは支持率の低い候補も巻き返す可能性がある。経済は回復基調にあるものの、外的環境はそれほど甘くはない。IMFは2018年度の成長予想を若干下方修正する可能性がある。

【ブラジルの多様性と独自性】(田中 泉氏)
ブラジルは、通貨(レアル)を国内のみで流通させ、しかも国内では外貨預金保有禁止という独特な為替管理を行っている。そのため決済可能なレアル先物為替市場よりも、差金決済型デリバティブが発達した。ブラジル中銀は介入手段として主に先物市場を利用する独自の管理手法を用いて過度な変動を抑制している。外貨準備高はアルゼンチンと比べ格段に高く、ブラジル中銀はレアル安の状況でも外貨準備を消費していない。あくまでも物価安定のための為替介入に限定している。名目GDPに対する経常収支比率も回復している。
ブラジル・コストと呼ばれる複雑な税制等の改正には時間がかかると思われる。外国企業のブラジル進出においては、資本を多めに入れる等、高金利メリットを享受できる構造を作ることが大事である。大統領選挙は本命不在の状況で、今でもルラ元大統領の人気が高い。選挙後の日本とメルコスール(南米南部共同市場)間の経済連携協定(EPA)締結をめぐる動向に注視している。

講演後に質疑応答が行われ、メキシコ新政権のメキシコ社会や進出日本企業への影響、アルゼンチン・ペソの今後の動向、ブラジルの金融政策の国際的評価、IMF支援受け入に対するアルゼンチン国民の本音、などの多岐の質問が出された。

「通貨安の逆風の耐えられるのか ~中南米主要国経済の現状と展望~」(PDF)
みずほ総合研究所 作成

「ブラジルの多様性と独自性」(PDF)
三井住友銀行 グローバル・アドバイザリー部 作成


みずほ総研 西川珠子 氏


三井住友銀行 田中泉 氏


会場の様子