『マヤ探検記 -人類史を書きかえた偉大なる冒険 上・下』 ウィリアム・カールセン | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『マヤ探検記 -人類史を書きかえた偉大なる冒険 上・下』 
ウィリアム・カールセン

 1839年ニューヨークから南米に向かう船に、40歳の画家で建築家のフレデリック・キャザウッドとともに乗り込んだ34歳の弁護士のジョン・ロイド・スティーブンスはグアテマラ・シティを目指す。米国政府国務長官から中米連邦共和国と通商協定を締結せよとの指令を受けての旅だったが、同時に二人は中米の密林の中に複雑な彫刻が施された石が埋もれているとの曖昧な報告を読んで、公務の後に密林に入って古い遺跡を訪れたいという計画をもっていた。当時この地域一帯は政治的抗争もあって治安が悪化し、さらに悪天候、蚊の襲来、マラリアに苦しめられ危険で困難な旅であったが、グアテマラに入り次々に密林の中のマヤの遺跡、石像、石碑を見つけ、調査し記録を取り、まだ写真機のなかった時代に、キャザウッドは撮影対象をプリズムで紙に反射させて輪郭をなぞるという光学装置を使って精密な絵を数多く描いた。
まだ考古学という概念が生まれる前で、欧米の探検家や博物学者はマヤの遺跡がそこに住む先住民の先祖が造ったものとは思ってもいなかった時代に、二人はコパン、キリグア、パレンケ、ティカル、ウシュマエル、チチェン・イッツァ、トゥルム等で高度な文明の痕跡を訪ね、計測し、綿密なスケッチで石柱に彫られたマヤ文字を正確に写し取った貴重な記録を残した。
米国の勃興期のカリフォルニアでのゴールドラッシュ、東部から西部を目指す人々を運ぶためのパナマ横断鉄道建設の前夜を背景に、それらにも関わることになった二人の探究心、遺跡の正確な姿を再現して伝えようとした真摯な姿勢は、米国のメソアメリカ考古学の始祖といってよい。上巻巻頭のキャザウッドが描いたカラー図版20点は遺跡の細部まで表しており、後世の写真にも優る素晴らしい資料である。
著者は、米国のジャーナリスト、作家。グアテマラに長年逗留して二人の足跡を取材した臨場感あるドキュメンタリー。
                                 〔桜井 敏浩〕

 (森 夏樹訳 青土社 2018年5月 上・下各398頁 各2,800円+税 上ISBN978-4-7917-7060-1・下978-4-7917-7061-8)

 〔『ラテンアメリカ時報』2018年夏号(No.1423)より〕