経済的、政治的、宗教的要因が絡んで母国を後にして異国に渡った移民は、移住先でより良い生活を求めて奮闘しながらも、排斥、差別に苦しむことが多々あったが、実のところその地域社会の発展に大きな貢献を果たしてきたのである。本書は、1991年に日本からの移民、日本への移民、世界規模の人口移動を多面的に研究しようと発足した「日本移民学会」が、2014~16年に海外移住資料館と共催で行った公開講座シリーズでの12回にわたる講座内容を纏めた論考集。
序章で「移民」の定義、近現代の論点、移民研究の活用と意義を、第1章で近代日本の出移民の属性、背景、契機等の歴史を振り返り、第2章以下でハワイ、米国、カナダ、満州、東南アジアへの移民の事例を述べているが、うち第5章でブラジル(三田千代子上智大学元教授)、第6章でメキシコ、ペルー(石川友紀琉球大学名誉教授)への中南米 移民について、それぞれの歴史、移住先の国・社会との関わりを、第9章は在日ブラジル人/出稼ぎ現象の小史と実態、日系人「帰国支援事業」の再考をアンジェロ・イシ武蔵大学教授が解析している。終章の移民研究の現状と展望では、中南米についての研究動向、人の移動と国際関係をトランスナショナル・リレーションズという視点から浅香幸枝南山大学准教授が論じている。
〔桜井 敏浩〕
(明石書店 2018年4月 302頁 2,600円+税 ISBN978-4-7503-4669-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』2018年秋号(No.1424)より〕