自然科学分野で行われている実験は、様々な要因が関わりそれらをコントロールすることが出来ない歴史学の分野では出来ないとされたが、近年統計や定量分析、さらにはコントロールされない現実の対象を分析する自然実験あるいは比較研究法と呼ばれる方法も行われるようになってきた。自然実験で似ているが一部は著しく異なるシステム同士を比較することで、本書ははるか過去から現代まで8つの事例を、歴史学、考古学、経済学、経済誌、地理学、政治学等の専門家が比較史・自然実験の手法で分析している。
ポリネシアの島々の文化実験、19世紀の米国西部への移民の増大、アフリカにおける奴隷貿易の影響、英国のインド統治制度、フランス革命の拡大とともに、米・ブラジル・メキシコにおいて銀行制度がいかにして成立したか、カリブ海のイスパニョーラ島に併存するハイチとドミニカ共和国がなぜ貧しい国と豊かな国に分かれたのかを、島の中と島の間の比較で解明しようとしている。アフリカが奴隷貿易の犠牲にならなければ、インドが英国の植民地統治の制度に取りこまらねば、ハイチがフランスではなくスペインに統治されていれば、それぞれがもっと豊かになったかは、歴史に“もし”は許されないが“なぜ”このようになったのかの答えを出そうとする試みは知的刺激を与えてくれる。
〔桜井 敏浩〕
(小坂恵理訳 慶應義塾大学出版会 2018年6月 314頁 2,800円+税 ISBN978-4-7664-2519-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』2018年秋号(No.1424)より〕