著者はカリブ共同体(CARICOM)14か国1地域のうち10か国を兼轄する在トリニダード・トバゴ(TT)大使館の専門調査員として2010~16年の間、異例の3期6年間在勤し、政治・外交・経済調査を担当するとともに、個人的にも積極的に現地社会に入ってあらゆる分野、事象に興味を持ち、観察した。
TTを深く知る著者による本書は、旧英領から独立し奴隷として連行されてきたアフリカ系、年季奉公制により来たインド・中国系など多民族から成る多文化社会の歴史、文化、人々の暮らし、食生活、宗教、スティール・パンやカリプソに代表される音楽、カーニバルや観光地の魅力、ノーベル賞作家ナイポールや歴史家であった初代首相ウィリアムズを生んだ土壌、スポーツ界などに始まり、英国式から独自の発展を遂げた政治体制、石油産業が牽引する経済・貿易、CARICOM中心の外交、日本との経済協力・文化交流関係を述べ、最後に独立50周年を経て今治安、汚職、劣悪な社会・医療サービス、拡大する所得・地域格差など直面する課題を指摘している。「筆者が観たトリニダード・トバゴ人」という15本のコラムとともに、TTについて掛け値無くすべてがこの1冊で分かる内容の濃い解説書。
〔桜井 敏浩〕
(論創社 2018年9月 314頁 2,700円+税 ISBN978-4-8460-1744-6 )
〔『ラテンアメリカ時報』2018年秋号(No.1424)より〕