20世紀を代表する教育思想家といわれるブラジル北東部生まれの教育学者・哲学者フレイレ(1921~97年)の代表作で、1968年に出た原著英語版の日本語訳は1979年に出版され版を重ねてきたが、2010年に1990年代に約10年間ブラジル北東部で母子保健活動を行ってきた公衆衛生研究者で作家の訳者がポルトガル語版から翻訳したものに、この度米国の出版社から出された出版50周年記念版の前書きと後書き、「同時代の学者たちへのインタビュー」を加えた新訳版。
厳しい自然条件の下で、豊かな南部等の「中心」に収奪され、貧困から出稼ぎに出る者の多い北東部に生まれ育ったフレイレによれば、この世界には抑圧する者たち-無知、貧しさ、人種、階級、ジェンダー等によって抑圧されている者たちがいる。教育が不正な状況下で抑圧のツールとして教師が生徒に知識を溜め込ませる「銀行型教育」から脱却して「対話的教育」へ、それを妨げる支配者が用いる分割統治やポピュリスト指導者による大衆操作にみられる「反-対話行動」と、それに対する相互信頼に基づく「対話行動」をキューバ革命運動中のゲバラと農民との関わりを例に論じている。本書は教育学の理論書ではなく、フレイレの行動と実践に裏付けされており、教育分野の人だけに留まらす特に開発に携わる人たちにも長く読み継がれてきた所以である。
〔桜井 敏浩〕
(三砂ちづる訳 亜紀書房 2018年5月 407頁 2,600円+税 ISBN978-4-7505-1545-8 )
〔『ラテンアメリカ時報』2018年秋号(No.1424)より〕