『ラテンアメリカ所得格差論 -歴史的起源・グローバル化・社会政策』 浜口 伸明編著 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
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『ラテンアメリカ所得格差論 -歴史的起源・グローバル化・社会政策』 浜口 伸明編著

 ラテンアメリカ諸国は、植民地時代から富と権力の偏在、先進国への一次産品輸出、1930年代からの政府主導工業化、80年代の政治的民主化とインフレ、国際収支危機に加えて構造的問題として所得格差を抱えている。
 グローバル化した市場経済の恩恵を受けようとし、経済自由化が所得分配にどのように影響するか、所得政策が負の影響を受ける人々に対するセーフティネットと経済社会の安定を目指す開発政策が社会の複雑な相互作用が引き起こしている発展停滞の現状を読み解くため、序章と6編の論考を載せている。
 まず第1章の「所得格差問題から視る意義と意味」では、現在の所得分配状況をデータで確認、構造的問題といえる所得格差の要因を考察し、第2章「ラテンアメリカにおけるグローバル化と所得格差の関係」をグローバル・バリューチェーンとの強い統合を特徴とするメキシコ・中米型とコモディティ輸出を通じたグローバル化の南米型に掘り下げて分析している。第3章「所得分配と社会政策」は条件付き現金給付を副次的効果も含めて、第4章ではラテンアメリカで多様な形態で展開した「格差社会に対抗する連帯経済という選択」を、最後の2つの章では「メキシコ・中米型」からメキシコ、「南米型」からブラジルの事例を取り上げている。NAFTAの参加と依然大きな割合を占めるインフォーマル部門が所得格差増減にもたらした影響、近代的な経済と伝統的な経済が並立する二重経済が色濃く残るメキシコ、歴史的に富の偏在が形成され2000年代にはコモディティ・ブームが貧困層にも恩恵をもたらし所得分配が改善し労働市場の構造変化をともなったブラジルだが、依然格差の絶対的水準は高く、コモディティ・ブームの沈静化、PT(労働者党)政権の汚職問題での支持失墜など政治的混乱も相まって今後の動向は不透明化していることを明らかにし、グローバル化や社会政策の拡充の下でも社会における格差を悪化する可能性について指摘している。各論考のどれもが示唆に富んだ研究書。
                               〔桜井 敏浩〕

(国際書院 2018年8月 256頁 3,500円+税 ISBN978-4-87791-291-8 )

 〔『ラテンアメリカ時報』2018年秋号(No.1424)より〕