連載レポート1:万国博覧会とラテンアメリカ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート1:万国博覧会とラテンアメリカ


連載レポート1

万国博覧会とラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

1)2013年ブエノスアイレスで万国博覧会が開催

2017年11月15日に行われた博覧会国際事務局(BIE、在パリ)の総会で、アルゼンチンのブエノスアイレス市が2023年の国際博覧会開催都市として選ばれた。オリンピックは、ラテンアメリカでは、メキシコ・シテイ(1968年)とリオ・デ・ジャネイロ(2016年)で開催されたが、国際博覧会は、ラテンアメリカでは、最初の開催であり、画期的なことである。競争相手は、米国のミネアポリス市、ポーランドのウイッチ市(Lodz)だったが、最初に米国が敗退し、決戦投票で、アルゼンチンが62票、ポーランドが56票で、アルゼンチンが勝利した。

国際博覧会には、大型の登録博覧会(昔の一般博覧会、期間6ヶ月)と小型の認定博覧会(昔の特別博覧会、3か月、日本の例で言うと沖縄海洋博、筑波科学技術博、愛地球博がそれに当たる)と2種類があるが、今回は小型の認定博覧会である。ここでは、登録博覧会、認定博覧会ともに万国博覧会と称することにする。

具体的には、ブエノスアイレス万博は、2023年1月15日から4月15日の3か月間開催され、テーマは、Science Innovation, Art and Creativity for Human Development, Creative Industries in Digital Convergenceである。

アルゼンチン経済が現在混迷しているので、実際に開催できるかが懸念される。何故なら、万国博覧会は、規模の大小はあるが、通常オリンピックより経費や手間暇がはるかにかかるからである。とりわけ、数多くの発展途上国からの参加を誘致しようとすれば、それらの国に対して、展示、広報、アテンダントたちの経費を負担することが求められるからである。10月に訪日したアルゼンチンの著名な元外交官に、その懸念につき質問すると、その内、穀物の輸出も伸び、経済も好転するので心配ないと言う極めて楽観的な回答であった。

2)オリンピックと万国博覧会

オリンピックと万国博覧会の2つの大イベントを開催した国は、世界的に一流国の仲間入りとよく言われる。現に両方を経験した国は、下記表のとおり、12カ国に過ぎない。オリンピックについては、前述のとおり、メキシコシテイとリオ・デ・ジャネイロ市で開催している。

万博については、2010年の万博開催候補都市に、メキシコのケレタロ市が、他の4都市(上海、韓国・麗水、モスクワ、ポーランド・ヴロクロウ)とともに、立候補したが、最終的に、上海が選ばれたことは周知の事実である。その後、ドバイが選ばれた2020年万博では、トルコのイズミール ロシアのエカテリンブルグとともにブラジルのサンパウロ市が立候補したが、最初の投票で敗退した。当時、ブラジルは、2014年のワールカップ、2016年、リオのオリンピックと立て続けに、誘致に成功したが、スタジアム等インフラ建設に関わる増収賄の問題等が発生し、市民によるワールドカップ反対の大規模デモが勃発した。インフラ整備より教育と医療というのが市民の声であった。ブラジル政府も誘致に力が入っていなかったのも敗因理由の一つである。その後、2023年に決まったブエノスアイレス万博の際には、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ市が立候補したが、途中で取りやめた経緯がある。

オリンピック、国際博覧会開催国(2023年までを含む)

両方開催 夏季オリンピックのみ開催 国際博覧会のみ開催
英国、フランス、ベルギー、ドイツ、イタリア、スペイン、米国、カナダ、オーストラリア、日本、韓国、中国 ギリシャ、フィンランド、オランダ、スエ―デン、ロシア、メキシコ、ブラジル オーストリア、ポルトガル、カザフスタン、UAE、アルゼンチン

3)1992年セビリャ万博以降のラテンアメリカの万博参加状況

1992年のセビリャ万博には、筆者は、ほぼ4年間、日本館の建設から運営まで、担当課長として従事した。その後のすべての万国博覧会・国際博覧会を見学した。1993年の韓国の太田世界博覧会、1998年のリスボン国際博覧会、2000年のハノーバー万国博覧会、名古屋での2005年愛地球博、2008年のリスボン国際博覧会、2010年の上海万国博覧会、2012年の韓国・麗水国際博覧会、2015年ミラノ万国博覧会、2017年カザフスタンのアスタナ国際博覧会である。博覧会の多くの人気館を見学したが、ラテンアメリカの諸国がどのように出展をしているのを見ることも大いなる楽しみであった。その経験から、以下感想を述べる。

下記の表は、1992年のセビリャ万国博覧会以降に開催された大型の登録博・一般博において、ラテンアメリカの主要国がどのような形で参加しているかをみたものである。少し説明が必要であるが、登録博・一般博の場合、主催国がパビリオン建設のための用地を提供し、その上に各参加国が独自にパビリオンを建設することになっている。大部分の発展途上国は、自国の財源の関係で、主催国が提供する合同館内に展示することになっている。通常、ラテンアメリカ合同館とかカリブ諸国合同館と呼ばれる。

これで見ると、ラテンアメリカ諸国の中で、万国博覧会の参加に一番熱心な国は、メキシコ、ベネズエラ、アルゼンチン、キューバの4カ国である。その中でも、メキシコは、いずれの博覧会でも、立派なパビリオン、素晴らしい展示を展開している。マヤやアステカの古代文明時代の遺跡、古代、植民地時代、現在と絵になる展示物が多く、多様性のある文化等をうまく紹介している。ベネズエラも博覧会には、非常に積極的で、いずれも単独館を建設し、映像を中心として、印象的な展示を毎回紹介している。アルゼンチンも全回、参加しているが、タンゴなどを前面に出した出展が多く、もう一工夫が必要である。キューバも全回、参加しているが、合同館が主体で、展示の内容はパネルによる国情紹介が多く、印象に残らない展示である。ブラジルは、愛・地球博には出展しなかったが、その他の登録博はすべて出展している。セビリャ博とハノーバー博は、合同館内の展示であったが、上海博、ミラノ博と単独パビリオンに切り替え、独自性を訴えるようになった。ただ、展示の内容は、アマゾンをアピールしたようなものが多く、大国にふさわしい展示が望まれる。コロンビアも愛・地球博には参加しなかったが、その他の4登録博のうち3回が単独館での出展である。チリは、セビリャ万博では、木造の華麗なパビリオンを出展し、南極の氷を展示して大いに注目されたが、それ以降のハノーバー万博と愛地球博は不参加であった。ペルーは、ハノーバー万博とミラノ万博は不参加であった。

表 一般博覧会・登録博覧会への主要ラテンアメリカの参加状況

国名 セビリャ万博
1992年
ハノーバー万博
2000年
愛地球博
2005年
上海万博
2010年
ミラノ万博
2015年
ブラジル 合同館 合同館 不参加 単独館 単独館
メキシコ 単独館 単独館 合同館 単独館 単独館
コロンビア 合同館 単独館 不参加 単独館 単独館
アルゼンチン 合同館 合同館 合同館 単独館 単独館
ベネズエラ 単独館 単独館 合同館 単独館 合同館
ペルー 合同館 不参加 合同館 単独館 不参加
チリ 単独館 不参加 不参加 単独館 単独館
キューバ 単独館 合同館 合同館 単独館 合同館

注:*愛地球博は登録博覧会ではないが、日本で開催されたので参考までに掲載した。

愛地球博は、認定博・特別博なので、単独館は存在せず、合同館のみになる。

その他のラテンアメリカ諸国の上記5つの博覧会の参加状況は、下記の表の通りである。これを見ると、5つの万博すべてに参加している国は、グアテマラ、エル・サルバドル、ドミニカ共和国、エクアドル、ボリビアの5カ国である。エクアドルはミラノ万博では単独館で参加した。4つの万博に参加している国は、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ、ハイチの5カ国である。ラテンアメリカでは比較的に小国と考えられる国々が熱心に万博に参加できるのは、主催国による発展途上国出展支援の賜物である。主催国によって支援の内容は若干異なるが、通常、展示装飾費、輸送費、広報費、アテンダント滞在費、現地アテンダント雇用費、ナショナルデーの催し物に関わる経費等至れり尽くせりの援助である。万博は参加国にとっても相当の経費が必要とされるので、発展途上国にとって、主催国の支援が無ければ出展できないのである。

表 その他のラテンアメリカ諸国による主要万博への参加状況

国名 セビリャ万博
1992年
ハノーバー万博
2000年
愛地球博
2005年
上海万博
2010年
ミラノ万博
2015年
グアテマラ
ホンジュラス X X
エル・サルバドル
ニカラグア X
コスタリカ X
パナマ X
ドミニカ共
ハイチ X
エクアドル
ボリビア
パラグアイ X X
ウルグアイ X X
ジャマイカ X X

注:◎は単独館、〇は合同館、Xは不参加を表す。出典:各万博のホームページ等

以   上

写真1 上海万博のブラジル館

写真2 上海万博のアルゼンチン館

写真3 ミラノ万博のメキシコ館

写真4 ミラノ万博のコロンビア館