執筆者:西岡勝樹(日本旗章学協会会員)
はじめに
2020年は日本にとって重要な年になる。つまり東京オリンピック・パラリンピックの年である。ラテンアメリカ諸国にとっても2020年から始まる2020年代は非常に重要な年代となる。つまりラテンアメリカ諸国にとって独立200周年を迎えるからである。これから2020年に向かってラテンアメリカ諸国は大いに盛り上がり、ダイナミックな時代を迎えることになる。
さて、話を国旗の話に戻すことにしよう。ラテンアメリカ諸国は18世紀末からの独立運動を経て、19世紀中ごろまでにはスペイン、ポルトガル、フランスから独立を果たした。その独立の過程において、各国は自分たちのアイデンティティーを現すために独自の国旗・国章を制定した。現在、身近に目にすることができるラテンアメリカ諸国の国旗・国章は独立後に制定され、大小の変更・修正を加えられて今に受け継がれている。国旗・国章はその国の歴史と文化を映す「鏡」であり、国と民をつなぐ「蝶番」でもある。そのようなラテンアメリカ諸国の国旗には、我々が知らない不思議が隠されている。これからラテンアメリカ諸国の33の独立国と2つの非独立地域の国旗の不思議について不定期ながら数回に渡り、紹介していきたい。
主に下記4項目に沿って、紹介していく。
1.国旗の根拠法、2.国旗の歴史、3.国旗の色、4.国旗の特徴
尚、ラテンアメリカ諸国の国旗・国章を紹介するにあたり、次の書籍を参考とした。
苅安望、2017、『世界の国旗・国章 歴史大図鑑』、山川出版社。
1.メキシコ国旗
図1 現在のメキシコ国旗
出所:https://embamex.sre.gob.mx/finlandia/index.php/embajada/acerca-de-mexico
1-1.メキシコ国旗の根拠法現
メキシコ国旗は下記法令の第二章、第三条にてその詳細が決められている。
国章、国旗、国歌に関する法令 (1984年2月8日官報発行における)
尚、2014年4月16日改定が行われている。
第一章 国家のシンボル
第一条 国章、国旗、国歌はメキシコ合衆国の国家のシンボルである(中略)
第二章 国家シンボルの特徴
第二条 国章について(後述)
第三条 国旗は3つの同じ幅を持った縦フランジ(縦帯)で分割された長方形から為る。
(縦三分割旗)配色は竿(ポール)側から緑、白、赤となる。白の縦帯の中央にその白縦帯の幅の四分の三の直径の国章を配する。国旗の縦の長さ、横の長さ(縦横)は4対7とする。(略)。
国家の三権の長の認証を得て、国旗の原型(MODELO)のひとつは国立公文書館に永久保存される。もうひとつは国立歴史博物館に保存される。
上記法令にて主に下記の4つの特徴が明記されている。
①縦三分割国旗
②三色国旗 竿側から緑、白、赤と決められている。
③真ん中の白帯の中央に 直径が白帯の幅の4分の3の国章。
④縦横のサイズ比 4対7 となる。
1-2.メキシコ国旗の歴史
国旗の日 2月24日
まずはメキシコの独立の歴史を振り返りながら、国旗の歴史をみていく。
メキシコは1810年9月16日、かの有名なイダルゴ神父の『ドローレスの叫び』によって独立運動が開始された。以後独立運動は辛苦を繰り返しながら1821年9月27日、アグスティン・デ・イトゥルビデ将軍によって独立宣言が行われた。
独立運動・独立革命が開始された9月16日がメキシコの独立記念日となっている。もちろん国旗掲揚が法令で義務づけされている、その他の日、9月15日、また2月24日も国旗掲揚が法令で定められている。この2月24日が国旗の日である。
この日がなぜ国旗の日となったかについては、独立宣言後の間もない1821年2月24日、後のメキシコ皇帝となったアウグスティン一世、イトゥルビデによって独立軍は勝利し、完全に独立を達成した。その独立戦争中に軍旗として掲げて勝利を勝ち取った。これを記念し、最初のメキシコ国旗としたその日を記念して国旗の日としている。
図2 『Bandera Trigarante 3つの保証軍の旗』
出所:http://www.mexicodesconocido.com.mx/historia-de-la-bandera-de-mexico-1-parte.html
図2の旗がイトゥルビデとその盟友ゲレロ軍の旗『Bandera Trigarante』である。この旗に書かれているIndependencia, Religión, Uniónを3つの保証として掲げ、3つの保証軍(Ejército Trigarante)を組織し独立を達成した。
この旗(軍旗)には白、緑、赤の斜めの帯が並び、それぞれの帯には星が見える。中央にはその3つの保証と王冠が配されているが、しかし、まだここには鷲は現れてはいない。この旗が最初に掲げられた2月24日が現在も独立のシンボルの日、すなわち、国旗の日としてメキシコ国中にはためいている。
この『Bandera Trigarante』の軍旗が現在の国旗の3色、白・緑・赤の起源となった。
国旗の色が意味するところは下記。
Blanco 白: Religión 宗教 (la fe a la Iglesia Católica) カトリック教への信仰
Rojo 赤: Unión 融合 (entre europeos y americanos) ヨーロッパンとアメリカの融合
Verde 緑: Independencia 独立 (Independencia de España) スペインからの独立
図3 『メキシコ第一帝政の国旗』
出所:http://www.mexicodesconocido.com.mx/historia-de-la-bandera-de-mexico-1-parte.html
図3の国旗は現在の国旗に似ているが、これはイトゥルビデ皇帝のメキシコ第一帝政の国旗である。
1821年11月2日制定されたが、1823年までとなった。
縦三分割の国旗、緑、白、赤の配列、中央にメキシコの伝統の国鳥である鷲が登場し、現在に繋がる国旗の基本デザインとなった。この国旗の鷲の登場以降、国旗の中央に配される国章の変更によって、国旗が数度変更されて、現国旗になった。
図4 (左)イタリア国旗 (右)メキシコ国旗
図4はイタリアの三色国旗(左)とメキシコ国旗(右)である。少し色合いが違うが、緑、白、赤の配色であり、メキシコ国旗の中央の国章が無ければイタリア国旗にそっくりといわれている。イタリア国旗はフランス国旗の青を緑にしたもの。しかし、縦横の比率が違いイタリア国旗は縦:横=2:3
となっている。
1-3. メキシコ国旗の色
前述の国旗の歴史の中で『Bandera Trigarante』の軍旗の色が現国旗の色の起源と述べたが、
その色の意味が当時の意味と現国旗の意味では違うと言われている。これはベニート・フアレス大統領による教会分離政策により国旗の色の意味を大きく変更されたためである。
Verde 緑: Esperanza. 希望
Blanco 白: Unidad. 融合
Rojo 赤: La sangre de los héroes nacionales. 国家英雄の血
1-4. メキシコ国旗の鷲
メキシコ国旗の一番の特徴はやはり中央にある鷲である。第一帝政国旗よりそのデザインは変わっているが一貫して、鷲は中央に居座っている。メキシコ国民にとって鷲は国家の象徴である。アステカ伝説で、アステカの民がその首都を定めるため、二百年間に渡り彷徨って神の神託による『鷲が蛇を咥えてサボテンの上にいる土地』を探し当てた。それが今のメキシコシティであり、かつてのアステカ帝国の都テノティティトランであった。
図5 メキシコ国章
出所:https://embamex.sre.gob.mx/finlandia/index.php/embajada/acerca-de-mexico
鷲 《国章》についての法令は下記。
第二章 国家シンボルの特徴
第二条 国章の特徴について
国章はメキシコ鷲をかたどる。その鷲の左側面映している、その翼の上部は羽飾りより高く、少し翼
をひろげ、今にも襲い掛かる戦闘態勢にある。その羽骨は下に伸び、尾に届く勢いである。その羽毛は自然の扇子のようである。左脚は湖より突き出た岩山に生えた花の実を付けたうちわサボテンをわしづかみ、その右脚とその嘴で曲がりくねったヘビを食らう。二本の小枝、ひとつは鷲の正面をかたどるカシの枝、もう一つは鷲の後ろを飾るローリエの枝、は両方から半円を形造り、真ん中で三色の帯リボンで結ばれている。色で国章を表す時には、国旗の色に合わせられる。
国旗の裏について
国章が国旗の裏側に現れる時、メキシコ鷲は右脚でサボテンをつかみ、その左足、その嘴で曲がりくねったヘビを加える。Párrafo adicionado DOF 09-05-1995 (1995年追記条項)(国旗の裏側の国章も 通常は左側側面を向いているが、国旗の裏側に合わせるように鷲も反対側、つまり、右側側面を向いた形にするというもの)
図6の国旗をご覧いただこう。メキシコ国旗の裏側である。鷲が右向いています。その証拠に緑色が右に来ている。
図6 国旗の裏側
以上