2015年12月から19年1月まで在キューバ大使の職にあった著者の在任中は、半世紀ぶりの米・キューバ外交関係の再開にともなうオバマ米国大統領の来訪、日本の総理大臣として歴史上初の安倍首相の訪問、フィデル・カストロ前国家評議会議長の死去、米国のトランプ大統領就任とともに観光旅行制限強化等のキューバ関係の見直し、そしてラウル・カストロ議長から若手のディアスカネル第一副議長への交替など内外ともに劇的な出来事が続いた。米・キューバ関係の改善の兆しとキューバ指導者の世代交代によって、キューバは変わるとの期待から、17年には約300社超の日本企業関係者が大使館を訪れたという。
初のスペイン語を話す日本大使として、著者は何がどう変わってきたか鋭敏なアンテナを張って調査し、多くの人に問いかけ、不思議一杯の国について旺盛な知識欲で整理した成果を、キューバの政治、経済、文化と社会、対外関係について50の項目、さらに国旗・国章・国歌や独立史等の「キューバのあれこれ」を15項目について平易な解説を綴っている。著者は決定的な情報・統計資料不足の中で、次々に湧いてくる疑問について取りあえず回答らしきところをまとめたエッセイのようなものと謙遜しているが、我が国で既刊のキューバ関係書はキューバ革命、カストロ、ゲバラについてのみ焦点を当てており、シンパシティも持ったものが多数、反対の立場が少数で大部分を占めている中で、本書はキューバを網羅的に理解する上で公平な視点での有用な情報を提供している。
(ベレ出版 2018年11月 294頁 1,800円+税 ISBN978-4-86064-563-2)
〔『ラテンアメリカ時報』2018/19年冬号(No.1425)より〕