連載エッセイ6:スペイン、ラテンアメリカで有名な日本人は? ―テレビ番組から考えたことー - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ6:スペイン、ラテンアメリカで有名な日本人は? ―テレビ番組から考えたことー


連載エッセイ6

スペイン、ラテンアメリカで有名な日本人は?

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

テレビ朝日系で、2018年中に放映された番組「陸海空 地球を征服するなんて」は、極めて興味深い番組であった。その中で、世界のいろいろな国で「有名な日本人」を現地の人々に質問し、その中から、ベスト10を選び出すという番組もあった。結果を見ると、思わぬ人が結構多数選ばれたりして、意外と驚きの一面もあった。アンケート対象者の人選、アンケート回答者数、アンケートの実施方法、アンケートが行われた都市や時期等で種々の疑問があり、どこまで信用できるのかという問題はあるというものの、この種の調査が過去に無かったこともあって取り上げてみたい。今までに、スペイン、メキシコ、アルゼンチン、ブラジルを対象に行われたので、下記に一覧表にした。その結果に基づきコメントしたい。 今後の日本や日本人の広報作戦を考える上で大いに参考になる点も多い。

1) 具体的名前によるランキング

第1位:鳥山明、4カ国、言わずと知れた「ドラゴンボール」の作家である。
第2位:本田圭佑、3カ国、ロシア、イタリア、メキシコで活躍したサッカー選手
    宮崎駿、3カ国、世界的に有名なアニメ映画の監督
第4位:黒澤明、2カ国、世界的に有名な映画監督
    三船敏郎、2カ国、世界で知られた映画俳優
残りは、1カ国でのみのエントリーである。
ここから判明したことは、マンガ・アニメの関係者、サッカー選手、映画監督・俳優が抜きんでていることである。

2) 職業別ランキング

サッカー選手:4カ国延べ6名
格闘家・レスラー:2カ国3名 
F1・オートバイレーサー・テニス:3カ国3名
漫画家:4カ国延べ6名
映画監督:3カ国延べ5名
歌手・タレント・音楽家・俳優・芸能人:3カ国延べ5名
建築家・彫刻家・陶芸家・芸術家:2カ国4名
料理人:2カ国2名
作家:1カ国2名

ここからわかることは、マンガ・アニメ・映画関係者が13名、サッカー選手・格闘家・レーサー・テニス選手のスポーツ選手が、11名を占めていることである。この2つの分野で、全体の40名の内の24名を占めることになる。続いて歌手・タレント等が5名、建築家・彫刻家等が4名と続く。日本ではほとんど知られていないが、現地で活躍している人物も10名に達する。 

3)国別の選び方の特徴
最初にブラジルを見てみよう。ベスト10の内、サッカー選手・格闘家等スポーツ選手が5名、アニメ・映画監督・タレントが5名で、私たちが期待するような作家とか建築家とかがなく、誠にあっけらかんといった感じである。ちなみに、1位は、特撮ヒーローのジャスピオンで知られた黒崎輝。

アルゼンチンは、アニメ・映画監督・俳優が4名、スポーツ選手、3名で、村上春樹と三島由紀夫の2名の作家が入っているのは、スペインと並び出版文化の中心国であるアルゼンチンらしい。サッカー選手の高原直泰が1位になっているのは、ブエノスの人気チームのボカジュニオールスに在籍していたからである。
メキシコは、アニメ・マンガが3名、俳優・歌手・芸能人が3名、スポーツ選手が2名、後は、園芸家と芸術家とバランスが取れている。日本ではほとんど知られていないが現地で活躍している人物が多いのが特色である。1位は、ドラゴンボールの鳥山明。本田圭佑が2位なのは比較的最近までメキシコのパチューカ・チームに在籍していたからである。
スペインは、レアル・べティスで活躍するサッカー選手の乾貴士、2位は、映画監督というよりも「風雲たけし城」で一世を風靡したビートたけし、その他スポーツ選手、建築家、彫刻家、陶芸家等バランスが取れている。

ラテン諸国で有名な日本人ベスト10

ランク スペイン メキシコ アルゼンチン ブラジル
放映日 2018/11/17 2018/9/8 2018/6/9 2018/8/11
第1位 乾貴士 サッカー 鳥山明 高原直泰 サッカー 黒崎輝 特撮
第2位 北野武 本田圭佑 サッカー 鳥山明 本田圭佑
第3位 支倉常長 九重佑三子 歌手 村上春樹 三浦和良
第4位 鳥山明 漫画家 車田正美 漫画家 黒澤明 ピコ太郎
第5位 藤井浩 演奏家* 加瀬辰雄 芸能人* 錦織圭 黒澤明
第6位 外尾悦郎 彫刻家 三船敏郎 本田圭佑 中島悟 F1
第7位 伊東豊雄 建築家 竹田鎮三郎 芸術家* 宮崎駿 鳥山明
第8位 阿部典史 オートバイレーサー* 奥村茂雄 悪役レスラー* 三船敏郎 岡見勇信 格闘家*
第9位 北尾由紀子 陶芸家* 松本辰五郎 園芸家* 三島由紀夫 宮崎駿
第10位 松久秀樹 料理人 宮崎駿 大野剛浩 料理家* 桜庭和志 格闘家

テレビ朝日系 「陸海空 地球を征服するなんて」*日本ではほとんど知られていない人物
なお、インターネットで「〇X国で有名な日本人」で検索すると、リストアップされた日本人のことがわかる。

3)アンケート調査から考えたこと

① 日本や日本文化の広報活動を積極的に展開すべきという意見が常に出されるが、このアンケート結果からいくつかのヒントが出て来る。まず、最初は、サッカーを中心とするスポーツ選手とアニメ・マンガ・映画関係者が、圧倒的にアピール度が強いということである。

例えば、ドラゴンボールで有名な鳥山明は、メキシコで1位、アルゼンチンで2位、スペインで4位、ブラジルで7位と強い人気を誇っている。宮崎駿も、アルゼンチンで7位、ブラジルで9位、メキシコで10位となっている。ジャスピオンの黒崎輝はブラジルで1位となっている。サッカー選手では、本田圭佑が、メキシコとブラジルで2位、アルゼンチンで6位、乾貴士がスペインで1位、高原直泰がアルゼンチンで1位となっている。

ここから外国向けのアニメ作家や監督、外国で活躍するスポーツ選手が輩出すると日本人の知名度が俄然上昇することが理解できる。仮に、鳥山明をスペインやラテンアメリカに広報大使として派遣し、セミナーやワークショップを各地で開催すればすれば、大成功間違いなしである。

② 外国で活動している日本人、外国に積極的に働きかけている日本人の知名度が高い。日本でたとえ有名でも海外に働きかけない日本人は、ほぼ無名と考えたほうが良い。海外に派遣する場合でも、日本では知名度が高いが、現地ではほとんど知られていない人物を紹介するのは極めて厄介なことだと理解すべきである。

③上述のように、同じラテンの国でも、それぞれの国によって、有名な日本人が大きく異なることを理解すべきであろう。

④日本では無名であっても、現地で有名な日本人は、日本や日本文化の広報に大いに活用することを検討すべきである。

⑤日本人は、年々内向きになりがちであるが、海外を目指す日本人を支援する何らかのメカニズムを作ることが望まれる。

⑥スペインとアルゼンチンで料理家が選ばれているが、食文化の普及には、日本からの料理家の派遣が効果的である。その際にも現地で活躍している日本人・日系人等シェフと一緒に活動することが望まれる。