ブラジル北東部のバイア州の港町サルバドル周辺で、アフリカ系黒人奴隷が過酷な労働を強いられ、武器の保有を厳しく禁じられた中で、護身の練習とダンスが基となって作られた格闘技と舞踊の混淆したものである。このカポエイラもまた1890年に刑法により犯罪とされ、奴隷文化の象徴と見られたことから、奴隷制度が廃止された後もブラジルの後進性を表すものとしてブラジル帝国政府によって隠蔽されていたため、1930年代の政権交替を機に他人種国家の国民統合を図るようになってやっと国民スポーツと位置づけられるようになった。
本書は筆者が大学生活の終期に東京のブラジル料理店でカポエイラのショーを見て知り、その後リオデジャネイロで本場のカポエイラを見て魅了され、「スポーツ人類学」としてカポエイラの研究で早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に提出した博士論文(スポーツ科学)に加筆修正し纏めたものである。ブラジルの歴史・社会的背景のもと、ナショナルアイデンティティ再創造とアフロ・ブラジル文化、国家教育政策とカポエイラ、競技化してきたカポエイラの文化的固有性などの歴史と実情を調査し、リオデジャネイロ州にあるカポエイラ教育センターでの弦楽器ビリンバウのリズムと動物の動きを模した技を二人の演者が繰り出し競うゲーム、そして劇場でのショーに見られるカポエイラのエンタテインメント化の中から新たな表現の創造で志向される文化固有性を指摘している。
〔桜井 敏浩〕
(明和出版 2015年4月 151頁 2,000円+税 ISBN978-4-901933-33-9 )