第1部:
【演題】「2019年、日本の対中南米外交を展望する」
【講演者】中前 隆博 外務省中南米局長
【日時】2019年3月14日(木)15:00~16:30
【場所】田中田村町ビル
【参加者】約60名
第1部では、中前隆博外務省中南米局長をお招きし、本年の中南米諸国の政治・外交・経済についてご講演いただきました。講演の要旨は以下の通りです。
・多くの中南米諸国が日本からのメッセージを期待している状況である。日本がどのようなポジションにあるのか関心が高い。中南米では2018年に6カ国、本年はグアテマラ、エルサルバドル、パナマ、ボリビア、アルゼンチン、ウルグアイの6カ国で大統領選挙が行われる。昨年末から今年年初にかけて発足したメキシコ、ブラジル、エルサルバドルの新政権についてみると、右派、左派といったイデオロギーよりも、既存の政治体制への国民の怒りが政治のムーブメントになって選出された。
・メキシコのロペス・オブラドール大統領は選挙で圧勝した。トップダウンで迅速に政策を実施している。NAFTA(北米自由貿易協定)から移行したUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)発効に向けて動き出しているが、批准までにはまだ時間がかかるだろう。対日本では自動車産業だけでなく観光客の相互訪問も増加している。
・ブラジルのボルソナーロ政権は、スーパー大臣と呼ばれる経済相、法務・治安相などが中心となって、財政立て直しや年金・税制改革等に取り組んでいる。1月のダボスでの世界経済フォーラムにおけるボルソナーロ大統領と安倍首相の会談は、和気あいあいとした雰囲気で、教育、科学技術面での協力、日本・メルコスールEPAについても言及された。
・ベネズエラでは昨年5月に選出されたマドゥロ大統領の再選に疑惑がもたれ国際的な批判が起こり、この中で本年1月23日にグアイド国会議長が暫定大統領就任を宣言した。3月7日には大規模な停電が発生し水の供給も滞る事態に陥っている。3月11日には米国が駐ベネズエラ大使館員の引き上げを発表した。現在、グアイド暫定大統領を支持する国は54カ国に上る。日本は2月19日に河野外務大臣がグアイド暫定大統領への支持表明をした。
・キューバでは2月の国民投票で憲法改正が可決された。社会主義体制を維持しながらも、外国投資促進、大統領職新設(任期5年、2期まで、60歳定年)等が決まった。日本との関係では、昨年12月にハバナで第3回日本・キューバ官民合同会議が開催された。
・アルゼンチンでは、昨年ペソの価値が半減するなど経済が停滞したが、IMF(国際通貨基金)の支援等によりほぼ沈静化している。本年10月27日に大統領選挙が行われる。
・コロンビアの新政権の政策の柱は合法性、ベンチャー企業支援、公平性の3つ。元ゲリラ組織FARCとの和平合意の一部見直しや、ベネズエラからの避難民が100万人以上に上るなど課題は多い。
・チリは高齢化社会対策、防災協力等で日本と連携している。11月16日、17日にはサンチャゴでAPEC(アジア太平洋経済協力)の首脳会合が開催される。
・2018年の対中南米外交は活発で各省庁政務(大臣・副大臣・政務官)の中南米訪問は延べ78カ国。12月には安倍首相が日本の首相として初めてウルグアイ、パラグアイを訪問した。主な成果は、日・アルゼンチン投資協定、日・ウルグアイ産牛肉相互輸出の解禁、パラグアイとは保健医療サービス向上や河川航路整備に資する無償資金協力がある。今国会では、日・アルゼンチン投資協定、コロンビアとエクアドルとの租税条約を上程中であ。日・中南米「連結性強化」構想では自由で開かれた経済システム、ルールベースの多国間主義、SDGs(持続可能な開発目標)の実現を目指す。
講演の後に出席者と意見交換が行われ、メキシコのストの状況や中国との関係、米国のベネズエラへの介入に対する日本の立場等についてコメントをいただいた。
第2部では、昨年12月11・12日に米国の首都ワシントンにおいて当協会が米国の代表的なシンクタンク、インターアメリカン・ダイアログ(IAD)と実施した共催セミナーの成果について参加者からの報告があった。
堀坂浩太郎上智大学名誉教授は、セミナーの概要を総括し、会議参加者の発言の中で、「米中の間に埋没せず、多国間主義を打ち出す意味は大きい」「長期的取り組みの重要性」等が印象に残ったとコメントした。細野昭雄国際協力機構(JICA)研究所シニア・リサーチアドバイザーは、日本と中南米経済の連結性強化やメキシコとの新たな関係性等について、桑山幹夫神戸大学経済経営研究所フェローは、日本主導のTPP11について言及したと述べた。
またソフトバンクグループのPSソリューションズの戸上崇農業科学LAB所長は、日本とコロンビアの国際共同研究プロジェクトとして実証実験中のIoT (Internet of Things)や AI(人工知能)を活用した農業支援ソリューション(”e-kakashi”)の取り組みについての発表内容を報告した。