『世界の憲法集 [第五版]』(ブラジル連邦共和国憲法ほか) 畑 博行・小森田 秋夫編 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『世界の憲法集 [第五版]』(ブラジル連邦共和国憲法ほか) 畑 博行・小森田 秋夫編


サミットを構成するようないわゆる主要国・欧米先進国のみならず、いくつかの旧社会主義国やアジア諸国を含む、世界の主要20か国・地域(欧州連合EU)の憲法の概説と日本語訳に、比較参照のため日本国憲法を付した充実した憲法訳書。1991年の初版にこの第5版からスイスとEUを加えた。

 ラテンアメリカからは唯一1988年ブラジル連邦共和国憲法が、二宮正人サンパウロ大学法学部教授と永井康之弁護士(サンパウロにあり二宮弁護士が会長を務める国外就労者情報援護センターCIATEの専務理事に出向)の共訳によって収録されている。1500年から1822年の間ポルトガル植民地時代から説き起こしてのブラジル国憲法の沿革、1824年のブラジル帝国欽定憲法、1891年の初代ブラジル合衆国憲法、1934年と1937年、1946年のブラジル合衆国憲法、1967年の連邦共和国憲法は、1960年初頭のクワドロス大統領の辞任・グラール副大統領昇格時の軍部との軋轢による議院内閣制の採用とその後の国民投票による大統領制の復活、1964年の軍事クーデターにより85年まで続くことになる軍政の下で成立、大統領を間接選挙で選出することとし、戒厳令の布告や連邦の州・市郡への干渉発令権など大統領権限を強化した。5期21年続いた軍政への民衆抗議運動が高まり、1984年の最後の間接選挙で選出された民間人タンクレード・ネーヴェス大統領の病気により繰り上げ当選したサルネイ副大統領が85年3月に就任、この民政大統領の下で選出された制憲議会で1988年に改正憲法が承認された。
 この1988年憲法は、軍政時代の反省から基本的人権、内・外国人の無差別平等、国家組織や租税制度、経済および金融秩序、社会保険に関する詳細な規定なども網羅しているが、憲法改正手続きは国会の両院で2回、しかもそれぞれ 5分の3以上の得票を要するとしている (これが現在年金改革等の実現を困難にさせている一因となっている)。なお、現行1988年憲法も経過規定に基づいて、この手続きを経ずに絶対多数決で改正するための規定が織り込まれていて、1992年~2015年の間に部分改正がなされている。

 日本においては憲法は「不磨の大典」的な考えが強いが、ブラジル憲法は過去7回にわたり新憲法が作成されたように、社会情勢の変化に応じて憲法は改正して新たな状況に臨むという考えを取っていることを指摘し、これまでの部分改正についても適切な解説も付されていて、ブラジル憲法そのもののみならず、現在のブラジルの政策の行方を知るためにも重要な資料である。
(有信堂 2018年12月 629頁 3,500円+税 ISBN978-4-8420-1083-0)

〔『ラテンアメリカ時報』 2019年春号(No.1426)より〕