『人とウミガメの民族誌 –ニカラグア先住民の商業的ウミガメ漁』  高木 仁 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会
Japanese English

『人とウミガメの民族誌 –ニカラグア先住民の商業的ウミガメ漁』  高木 仁

世界の熱帯地帯の海に生息するアオウミガメは、大航海時代から航海者の貴重な蛋白源として乱獲され、現在も食料として毎年数千頭単位で消費する人たちが居る。かかる自然資源の利用を、著者がその研究分野である環境人類学の観点から、ニカラグアのカリブ海沿岸地域での実査に基づいて解析しようとした労作。

カリブ海域には全世界で7種いるウミガメのうち4種が生息するが、すべて絶滅の危機にある動物種(レッドリスト)と指定され、周辺海域ではその管理体制の構築が進められているが、ニカラグア政府が行おうとしている通年での厳しい漁獲制限には地元の先住民自治州が抵抗し、自然資源管理の溝を埋めることは難しい。著者(現在は国立民族学博物館所属)がニカラグアのかつては英国保護領であった北東部のミスキート諸島周辺の村落に入り漁獲に同行した調査に基づき、先住民のモスキート・インディアンが資源管理下で行っているウミガメ捕獲漁業の実態を、漁業者の集団構成、捕獲方法、漁場の位置などから明らかにしている。次いでロブスターとともに換金商品であり、希少なこの動物が、富や財としてどのように販売、流通し、収益が分配され、肉が消費されているかを詳細かつ具体的に紹介している。

著者も調査前は、希少動物となったアオウミガメを年間数千頭も屠殺し食するのは常軌を逸した行動だと思っていたが、他の動物性蛋白の入手が資源量や価格などから難しい経済辺境の当地にあっては、野生動物が家畜動物由来肉と同じ食材と位置づけられている実情が分かってきた。一方で、文明社会が希少動物と認定しているアオウミガメについては、食することに嫌悪感を持つ人もいれば産卵地や養殖カメを観光資源にしている地もあり、人々の考え方は様々である。地球という空間の中で、文明社会の理性では希少生物を保護し観察等で価値(財)を得るべきというが、動物そのものを財や富として見る在地の経済的な考え方が特殊であるかということは、興味深い比較対象となるという結論は示唆に富む。

(明石書店 2019年1月 256頁 3,600円+税 ISBN978-4-7503-4775-2)
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年春号(No.1426)より〕