『教皇フランシスコ -南の世界から』 乗 浩子  | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『教皇フランシスコ -南の世界から』 乗 浩子 


ほとんどが欧州から選ばれて来たローマ教皇だが、第266代としてはじめてアルゼンチンのベルゴリオ ブエノスアイレス枢機卿が選出され、フランシスコと名乗ることとなった。世界のカトリック人口の半数近い50億人が住み、全人口の9割が信者と言われるラテンアメリカから初めて、しかも初のイエズス会士である。

イタリア移民の息子がイエズス会に入会し管区長に昇進したが、スラムに通う大司教として知られていたのが2013年の全枢機卿による選挙でついに教皇に選出された。本書はアルゼンチンでの軍政下の「汚い戦争」の時代の教会と軍との関係にも触れつつ、バチカンの現代史、近年の歴代教皇の関心事と功績に触れ、アフリカとアジアで増えるキリスト教徒の動向、冷戦体制崩壊時期に民主化を促した教会の役割、近年のプロテスタント(福音派とペンテコステ派)の急激な拡大に危機感をもったカトリック・カリスマ派の台頭、宗教的多元化の行方を述べ、教皇フランシスコの課題と即位後6年間のバチカン改革、離婚や妊娠中絶、LGBT等のモラル問題、宗派・異宗教間対話、キューバや中国との関係再開の模索などの実績を解説し、教皇フランシスコの環境や人権問題、平和への思想を表す回勅『ラウダート・シ』の概要を紹介している。

ラテンアメリカでは、スペインの征服、植民地化の始まりから、植民地時代、独立を経て現代に至るまで、カトリックは因縁が深いものがあったが、20世紀以降も各地での民族的自立と体制変革の中で、ラテンアメリカのカトリック教会は国家志向の組織から次第に社会志向に転換してきた。社会生活規範や教育面などに与える影響力はかつてほどではなくなったが、依然ラテンアメリカの政治、人々の社会規範意識を知り理解するためには、カトリックについての知識とその精神的指導者であるローマ教皇について知ることは必要不可欠である。ラテンアメリカを宗教と政治の視点から長く研究してきた元帝京大学教授による本書は、それに答えてくれる手ごろな入門書である。

〔桜井 敏浩〕

(平凡社(新書) 2019年3月 287頁 920円+税 ISBN978-4-582-85907-2 )

〔『ラテンアメリカ時報』 2019年春号(No.1426)より〕