20世紀後半に日本を含め世界的にブームを起こしたラテンアメリカ文学、これまでは長編小説が多く紹介されたが、本書では日本でラテンアメリカ文学を研究し多くの訳書もある著者(東京大学名誉教授)が現代の短篇作品のうちから16編を選び、編年体ではなく作品の性格から独自に4つに分類して、ラテンアメリカ独特の文化的多面性を文学作品から提示している。
「多民族・多人種状況/被征服・植民地の記憶」でのオクタビオ・パス、カルロス・フエンテス(いずれもメキシコ)、イザベル・アジェンデ(チリ)、ミゲル・アンヘル・アストゥリアス(グアテマラ)など6編、「暴力的風土・自然/マチスモ・フェミニズム/犯罪・殺人」でオラシオ・キロガ(ウルグアイ)、マリオ・バルガス=リョサ(ペルー)、ガブリエル・ガルシア=マルケス(コロンビア)等4編、「都市・疎外感/性・恐怖の結末」ではサルバドル・ガルメンディア(ベネズエラ)等3編、「夢・妄想・語り/SF・幻想」ではアドルフォ・ビオイ=カサーレス(アルゼンチン)等3編を収録し、著者がかかる分類をした意図、ラテンアメリカ文学の背景となった歴史、16人の作家の作風や作品の意義などを解説し、それぞれの略歴を付けている。長編では取り組み難いという読者にも、ラテンアメリカ文学の面白さを垣間見せてくれる手頃な選集。
(岩波書店(文庫 赤793-1) 2019年3月 394頁 1,020円+税 ISBN978-4-00-327931-1 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年春号(No.1426)より〕