『民主主義の死に方 -二極化する政治が招く独裁への道』スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『民主主義の死に方 -二極化する政治が招く独裁への道』スティーブン・レビツキー、ダニエル・ジブラット


2016年11月米国大統領にトランプ氏が選出されたが、この「はっきりと独裁的な傾向をもつ男」が何故共和党内で大統領候補になり得たか? 如何にして民主党のヒラリー・クリントン候補を破ったか? トランプ政権の1年目でこの「独裁者の成績表」からこれからどんなことが読み取れるか? を明らかにしようとしたのが、米ハーバード大学でともに開発途上国・ラテンアメリカを研究者する著者達による本書の狙いであり、記述の大部分は米国政治を扱っている。まずは「民主主義制度が民主主義を殺す」(池上 彰氏が解説)ことを実証するために、民主主義を死に至らしめようとした/至らしめている世界の独裁者の事例を挙げて主張を補強している。独裁主義的な行動を示すポイントとして、①ゲームの民主主義的ルールの拒否、②政治的な対立相手の正当性の否定、③暴力の許容、④メディアを含む対立相手の市民的自由の剥奪を挙げ(P.42)、トランプが独裁主義的な行動を示すポイントとしても、これらが該当するとしている(P.91)。

事例としては、チャベスを利用しようとして大統領への道を開いたベネズエラの元大統領(P.34)、初めから独裁者になろうとした訳ではないが結局は民主主義を破壊したペルーのフジモリ大統領(P.99)、政権に登場する前後の独裁者へのメディア、議会既存勢力との言葉の流れから始まる民主主義の崩壊例としてのエクアドルのコレア、アルゼンチンのペロン、ベネズエラのチャベスの例(P.104)、「どうやって破壊するか」の手段として、審判の抱き込み(裁判所を支配する)、メディアの買収、対戦相手を欠場させる手段として実業家や文化人の抑圧(ペロンとボルヘス P.114)、選挙区変更や投票の制限、ルールを徐々に変えるという方法、指導者が危機を作り出し民主主義の擁護を口実に一気に破壊を進めるという手がある(フジモリの“自己クーデター” P.123)。

民主主義のガードレールである憲法を、その違反ギリギリの強硬手段を用いたアルゼンチンのペロンとメネム、ベネズエラのチャベスの後継者マドゥーロ(P.141)、議会による特権の行使で弾劾が成立したパラグアイのルゴ大統領(P.142)、妥協の文化を失ったチリでのアジェンデ大統領の治世から軍事クーデターに至った経緯(P.145)などを挙げている。これらから、トランプ政権の1年目を見るための独裁者の成績表として「審判の抱き込み」「プレーヤーの追放」「ルールの変更」のそれぞれの該当の有無を、アルゼンチンのペロン(就任は1946年6月)、エクアドルのコレア(2007年1月)、ペルーのフジモリ(1990年7月)とウマラ(2011年7月)、ベネズエラのチャベス(1999年2月)と対比して一覧を掲げている(P.229)。

ラテンアメリカ等で起きた民主主義の崩壊を追って分析し、「今、世界中で民主主義がゆっくりと静かに殺されている」という危機感から、将来に向けて打つべき手を提言しようとしている。

〔桜井 敏浩〕

(濱野大道訳 新潮社 2018年9月 318頁 2,500円+税 ISBN978-4-10-507061-8)
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年春号(No.1426)より〕