様々な民族から成る多様な文化をもつラテンアメリカは、多くの日本人移住者が住み親日的であるが、人の移動により多様性を維持しているラテンアメリカの実情を知ることにより、世界の中での日本人の立ち位置、すなわち「交差する眼差し」を知ることができるという狙いで編まれた論集。
まず「第1部 人の移動が作る世界」では、移民から形成されてきたラテンアメリカの中で、日系の人口割合は少ないが現地に適応して中産階級以上の社会的位置を獲得している日系人と、同じく成功する移民と言われるシリア・レバノン人との比較を交えて考察し、日系人社会の変容と安倍首相の中南米外交に見られる日本政府の関心の変遷を述べている。「第2部 歴史から読み解く世界」では、現代のラテンアメリカの問題や課題が、1492年のコロンブスの「発見」以来ラテンアメリカが産出した銀などの鉱物資源を獲得したスペインが国際社会で当初圧倒的優位に立ったこと、日本にまでキリスト教布教活動が及びその殉教修道士の壁画がメキシコに遺されていること、行政がカトリックの宗教祝祭に関与していることなどを挙げて、ラテンアメリカの多様性の歴史的背景を明らかにしている。
「第3部 課題に挑戦する世界」では、コロンビアでの暴力抗争の和解、ラテンアメリカから豊かな米国へ移住した者の子弟への米国の公的教育支援、中米先住民が持ち続ける伝統文化のソフトパワー、日本からラテンアメリカへのODAが援助からパートナーシップ関係に変化していること、メキシコのカルデロン政権下での麻薬戦争失敗は組織犯罪を存続させる構造に手を付けなかったことに起因することなどを考察している。これら3部に共通するのは、ラテンアメリカの問題はスペイン征服に起源をもち多国籍企業の搾取によって生じた貧富の格差の存在にあり、これが雇用を求めての国内外の人の移動を生じさせているという指摘である。
(行路社 2019年3月 300頁 2,800円+税 ISBN978-4-87534-395-0 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年春号(No.1426)より〕