『大いなる奥地』(筑摩書房世界文学大系83 1976年)で知られるブラジル文学の代表的作家ホーザは、1908年にミナスジェライス州の田舎風の町で生まれ、医師としてまた幾つかの外国語に堪能なことから1938年には外務省に入りドイツ、コロンビア在勤を経て1958年には本省の大使級公使まで昇任したが、翌59年にブラジル文学アカデミー会員に選出され就任式で講演した3日後に心筋梗塞で急逝した。
1962年に出版された本書は21の短篇小説から構成されており、主人公達はずば抜けた才能をもつ少年や青年、聖人、ならず者から吸血鬼や一種の悟りを開いた精神を病んだ者たちに至る社会心理学的に正常な範囲を逸脱した、年齢や人生経験が様々な者たちである。
ブラジリア建設地に初めておじ夫婦に連れられて来られた少年の体験を描いた『喜びの縁』、その主人公が少し成長して病気に罹った母親を訪ねて再びブラジリアへ旅する『梢』、ある時から家族と別れて他人との対話を絶ってカヌーで川を往来する男について、唯一川岸に残った息子が語る『第三の川岸』など、ポルトガル語を母国語としていても難解と言われるホーザの作品を敢えて飜訳に挑んだ、「ブラジリア現代文学コレクション」の既刊7冊のうちの一冊。 〔桜井 敏浩〕
(高橋都彦訳 水声社 2018年 5月 274頁 2,200円+税 ISBN978-4-8010-0294-4 )