連載レポート16:ヒスパニックを考える - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート16:ヒスパニックを考える


連載レポート16

ヒスパニックを考える

執筆者:瀧澤寿美雄(株式会社メヒココンサルティング)

米国にみられる「スペイン語の逆襲」現象

スペインや中南米の国々で使用されている言葉はスペイン語である。しかし、今注目すべきは北米、特に米国で話されるスペイン語人口の多さで、同時にその数が増加し続けている。アメリカのスペイン語人口はスペイン語系住民(ヒスパニックhispanicまたはラティーノlatino と呼ばれる)で構成され、今や5,500万人にのぼるといわれている。

米国センサス局による2015年の推計では、5歳以上でスペイン語を家庭で話す人口は4,005万人、「英語を大変上手に話さない」人口は1,643万人である。また、5歳以上のラティーノの人口は5,145万人である。、

この数字は、メキシコに次いでスペイン語母語人口が多いスペイン本国や南米コロンビアの人口に匹敵するかまたは上回っている。とりわけ、カリフォルニア州、テキサス州、フロリダ州やニューヨーク州に多く集中しているが、米国と国境を接するメキシコ系アメリカ人の存在は、スペイン語の普及に大きな影響を与えていると言える。たとえば、米国ロサンゼルスのスペイン語人口は市住民の約半数にあたる400万人を超え、スペイン語を公用語と定める南米ウルグアイの人口に匹敵する。

世界各地への言語の拡散という観点からみると、スペイン語は群を抜いている。ネイティブスピーカーの最も多い中国語は大半が中国国内に暮らしているため、広がりという点では低いと言える。一方、使用地域が広く汎用性が高い英語は、国際語としての地位はゆるぎないものの、スペイン語は世界20ヶ国以上で話されている多数派言語としての地盤を確立しつつあり、英語にひけをとらない世界で通じる国際語になりつつある有力言語である。

2017年夏に全米ナンバーワンでヒットした曲をご存知だろうか? これをスペイン語で歌っているのはLuis Fonsiルイス フォンスィというプエルトリコ出身の男性である。スペイン語の曲名は「Despacitoデスパスィート」といい、タイトルは元の単語despacioの縮小字形で「ちょっとゆっくり」の意味である。Youtubeでこの曲を検索するとスペイン語の歌詞とともにカタカナ表記してあり、日本人なら原曲に近い発音が可能である。

米国を揺るがすヒスパニック・パワーの炸裂

2000年に発表された米国の国勢調査によると、ヒスパニックの人口が全米人口の12.5%の3,531万人に達し、黒人の12.3%を抜いて米国最大のマイノリティー集団に浮かび上がってきた。その後も増え続け、2010年には5,048万人を記録し、全人口の16.3%にまで上昇した。つまり、過去10年間に60%もヒスパニック人口が膨れ上がったことになる。この傾向が続くとなると、2050年には全人口の30%に達するという見方もある。

ヒスパニックとは、スペイン語を母国語とする中南米系のアメリカに住む人々のことで、実質上は白人、黒人、黄色人種、混血と横断的な人種を意味する。そのため、ヒスパニックと答えた米国人のうち、人種的には白人と回答したものが48%になっている。

ヒスパニックという言葉はスペインとの植民地時代の名残りが感じられるので、「ラティーノ」(latino)というラテンアメリカとの繋がリを重視する言葉が好まれる傾向も見られるが、ここでは統一して「ヒスパニック」(hispanic)を用いる。

21世紀のアメリカを理解する上で、このヒスパニックがキーワードになると言っても過言ではない。まず手始めに、米国のセンサスの統計数値を使って現状の人口分布を地域面から把握することから始めよう。ヒスパニックの出身国として最も多いのはメキシコ(63%)、プエルトリコ(9.2%)、キューバ(3,5%)、エルサルバドル(3,3%)と続いている。

ヒスパニックはまた大都市に住み着く傾向が強くみられ、メキシコ人が多く住む米国と国境を接するカリフォルニア州(1,011万人)、米国の自由連合州でプエルトリコ人がスパニッシュハーレムを形成するニューヨーク州(262万人)、そしてマイアミがラテンアメリヘのゲートウエイで中南米金融の中心地として注目され、多くのキューバ人が住むフロリダ州(224万)を、ヒスパニックを代表する三大集団として位置付けることができる。

ヒスパニックの特徴

次に、その旺盛な消費意欲に支えられる購買力は、今やメキシコのGDP(国内総生産)に匹敵する規模にまで膨れ上がっている。今後、確実に成長が見込めるヒスパニックマーケットを、スペイン語を駆使するメディアの攻勢や電話会社、消費材メーカー、金融機関、製薬メーカーなどの米国企業が展開するマーケティングを通じて理解すると分かりやすい。特にインターネットを使った企業のマーケティング事例を取り上げて解説を試みよう。

ヒスパニックの特徴の中で以下の点が注目される。ヒスパニックは、アジア系アメリカ人と比較して、言語的にはスペイン語という共通言語を有するので、中南米の多様性を維持しつつ統一性は高い。しかし、かならずしも一枚岩ではない。メキシコ人は、キューバ人やプエルトリコ人とは異なる反応をみせる。マーケティング面では、たとえば企業が広告展開する場合は、スペイン語の使われ方、感性、文化的な違いを考慮して注意深くメッセージを伝える必要がでてくる。

平均的な米国人と比べて、人口増加率が高く、大家族で平均世帯構成人数が多く、また、若年労働力が豊富である。これはとりもなおさず、ヒスパニック市場が今後有望であることを物語っている。スペイン語はもはや米国内では外国語ではなくなっていて、スペイン語が理解できれば就職の機会も増えることを意味する。

そして、最大の特徴は、英語を話し主流文化に溶け込むことがなく、スペイン語のみによる地域社会を形成し、自分たち独自の文化や価値観を維持し、出身国であるラテンアメリカと緊密な接触を保つことにある。つまり、ヒスパニック系が持つラテン文化、音楽からファッションまで「かっこいい、センスがいい」といわれるほどになり、近年はますます彼らの持つ独自の文化的伝統に自信を持ちはじめているのだ。一方で、保守的な米国人の間では、英語よりもスペイン語を話すことに固執し、米国の持つ伝統文化と合わず、自分達のものを押し付けるようになりはしないかと危惧されている。

最後に、このマイノリティー集団が政治力を増し、共和党、民主党にかかわらずヒスパニック票を選挙でどう取り込むかが勝敗の分かれ目になりつつあることは見逃せない。実は、この原稿を見直している最中に、民主党のフリアン カストロが2020年の大統領選挙出馬を表明し、トランプ政権を批判したとの号外報道が飛び込んできた。 

際立つメキシコ系移民 -『分断されるアメリカ』の立役者

ヒスパニックが集中する三大地域や彼らの中で最も影響力がありラティーノ集団のマジョリティーであるメキシコ系移民について話をしたい。

2004年の夏、「メキシコ人が消えた日」という映画が米国で上映された。内容は、メキシコからやってきたヒスパニック系住民がある日突然、カリフォリニア州から姿を消してしまうというものだ。これを聞いただけで、こんな風景が思い起こせよう。農地で働く季節労働者、レストランの従業員、建設現場やビルの清掃などに従事し、社会の底辺で仕事をする人々がいなくなり、州内各地が街としての機能は麻痺し、市民がパニック状態に陥る光景だ。

また、「ヒスパニックビート2004」という映画が上映されたのを機に、米国のヒスパニック問題をあらためて問い直してみよう。米国大統領選が近づくと、日本の新聞などにもヒスパニックに関する記事を目にする機会が多くなる。特に、2004年6月12日に、NHK衛星放送のBSチャンネルで、世界潮流「ヒスパニック・パワー アメリカが変わる」と題する90分ほどの番組が放映されたのは、注目に値する。

さて、以前、米国や中南米で話題になった、米ハーバード大学教授サミュエル・ハンチントン(当時77才)の著書 “Who Are We? The Challenges to America’s National Identity”(邦訳『分断されるアメリカ』集英社刊 2004年)について一言っ触れておこう。トランプ大統領当選後の米国では、メキシコ系移民の主流から見た異質性とその脅威を強調するこの書籍が再び読まれていると報道されている。
この中で、ヒスパニックとりわけメキシコ系移民の米国社会への影響について書かれた箇所がある。第三部「アメリカのアイデンティティーに危機」の第9章「メキシコ移民とヒスパニック化」という50ページほどさいたところで述べられている

彼の考えを一言で言えば、メキシコ系を中心としたヒスパニック系移民の増加が今後も続けば、彼らの存在はアメリカを文化的、言語的に分裂させかねないほど大きな脅威になってきている、ということだ。すなわち、米国文化の主流であるアングロ・プロテスタントの価値観や共通語の英語を変えてまで、多文化主義化する必要はないと結論付けていることが注目される。彼の主張については、中南米と米国からいろいろな反論が展開されている。

ヒスパニック最大派閥メキシコ系移民の挑戦

メキシコ移民は全米各地でヒスパニック化を推進し、ヒスパニック社会にふさわしい文化、言語、経済の慣行を広めたため、アメリカは文化的に二分され、英語とスペイン語の二つの公用語を持つ「アングロ – ヒスパニック社会」へと変貌する可能性が生じてきたと、結論付けている。

西側先進国で、第三世界の国と陸続きで国境を接している国はアメリカだけである。メキシコから3200キロに及ぶ国境を超えて大量の移民が今日でも流入しつづけている。2000年のメキシコからの移民数は784万人で、ずば抜けて多く、上位5ヶ国の中国、フィリピン、インドでその数はせいぜい100~140万人である。2000年のメキシコからの不法滞在者数は、480万人で全体の69%を占めている。米国で不法移民と言えば、メキシコ人をさすことになる。

繰り返しになるが、ヒスパニックは、局地的に人口集中する傾向があるのは良く知られた事実である。たとえば、南カリフォルニアのメキシコ人、マイアミのキューバ人、ニューヨークのプエルトリコ人やドミニカ人などである。2000年にはロサンゼルス住民の46.5%がヒスパニックであり、その64%をメキシコ人が占めているという驚異的な数字に驚かざるをえない。

米国の領土に対する過去の所有権を主張できるのはメキシコ人である。米国南西部は、1846年から始まった米墨戦争でメキシコがアメリカに負けて土地を失うまではメキシコ領土の一部であった。南西部でスペイン語の名がついた土地が多いのもこれでうなずける。メキシコと国境を接するテキサス、ニューメキシコ、アリゾナ、カリフォルニアの各州にメキシコ系移民が際立って多いのはこのような歴史的な背景があり、「自分の故里に帰ってきただけ」というような感覚を彼らは持ち合わせているのかもしれない。

メキシコ人の同化の遅れ

米国へどれだけ同化したかを表す尺度として、言語、教育、所得、市民権、異民族との結婚、アイデンティティーなどが考えられる。メキシコ系移民は他の移民に比べて同化への努力が不足していると、著者は断言している。特に言語の習得は同化の最低条件であるが、英語を上達させようとする姿勢が見えにくいとも言っている。

高校中退者の割合の高さなど教育水準の低さから、メキシコ移民は経済的階層の底辺にいるのは事実かもしれない。彼らの帰化率も他の移民集団に比べてかなり低く、その最大の原因は不法移民が多いからだとも言える。同化ぶりを如実に示す例として、ヒスパニックが福音派のプロテスタントに改宗した場合を著者はあげている。

個人の同化と移民地域の結束

メキシコ系アメリカ人が高等教育を受け、社会経済的に進出して米国の中流階級の仲間入りをするようになると、アメリカの文化を拒否して自国文化を信奉し、それを普及させる傾向が強くなるだろうと、ハンチントンは述べている。

現在の米国南西部のメキシコ系移民の逆襲は、メキシコ人が米国に奪われた領土を奪還するいわば「レコンキスタ」(国土回復運動)と位置付けると分かりやすいかもしれない。ニューメキシコ大学のある教授は、こんな大胆な予測をしている。2080年までには、米国南西部の地域とメキシコ北部は合併し、新しい国家「ラ・レプブリカ・デル・ノルテ」(北部共和国)を形成するかもしれないと。

南西部のヒスパニック化

この箇所は前段のマイアミのヒスパニック化と対照して書かれたものと思う。随所に、キューバ系移民とメキシコ系移民の違いを説明していて興味がつきない。

南西部のヒスパニック化は、下から上へと政治的に動かされたものであった。メキシコ政府は、米国への移住を奨励し、米国在住のメキシコ人と関係を維持して本国に送金するように仕向けている。2004年7月7日の読売新聞の報道によれば、メキシコのフォックス大統領(当時)は、2004年1月に発表したブッシュ大統領の不法移民の合法化案について、「一つの提案にすぎず、国民の自由な移動を実現するための戦いを続ける」と述べている。15年後の2019年6月1日の同新聞朝刊には、トランプ大統領がメキシコ政府に流入する中米からの不法移民対策が不十分であるとし、「移民対策迫り、追加関税」という見出しが目についた。

マイアミとロサンゼルスで聞くスペイン語の持つ意味合いについて鋭い指摘がある。マイアミのスペイン語は、レストランで食事をする人や車や庭木を所有する人の話す言葉である。しかし、ロサンゼルスでは、非ヒスパニック系白人がかろうじて気にとめる程度の言葉で、周囲の騒音の一部でしかない。ガソリンスタンドで働く人やレストランでテーブルを片付ける人たちの言葉なのだ。同じスペイン語でも話される地域でその受け取り方が異なる。

ヒスパニック・マーケティング

最後に、私が興味を持っているヒスパニック・マーケティングについても著者は簡単に触れている。著者がヒスパニックの存在を肯定した唯一の記述とも考えられる。5500万人いるヒスパニックのすべてが消費者であり、2000年の年間購買力は4,400億ドルと推定されている。アジア系移民や黒人を含むエスニックマーケットの中でも、ヒスパニック市場は、旺盛な消費意欲に支えられて巨大な市場を誇っている。

米国の消費市場は非常に細分化されていて、特定の集団の志向や趣味に合わせて販売戦略を考えるのが一般的である。ヒスパニック市場は雨後のタケノコの勢いで膨張しており、特に彼らの嗜好に合わせた各種製品が誕生している。スペイン語の新聞、雑誌、書籍、放送などのメディア関係から一般消費財まで幅広くマーケットが存在し、成長を続けている。

たとえば、日用品大手プロクター・アンド・ギャンブル社は、広告費の1割をヒスパニック対策にあて、洗剤にヒスパニック系好みの香料を調合した新製品を発売した。チョコレートの老舗ハーツは、今秋からヒスパニック向けにスパイスを効かせたキャンディーを販売する。また、食品スーパー大手のクローガーも一部の店舗をヒスパニック向けの内装に替えた。

そのヒスパニック・マーケティングでも、さらに特別な層としてメキシコ人、キューバ人、プエルトリコ人向けに細分化され、企業はきめ細かな対応を迫られているのが現状である。ヒスパニック市場でのシェア拡大を目指す企業買収・提携も相次いでいる。

米国におけるスペイン語の重要性

米国の20以上の州では英語を公用語と定める法律を制定し、スペイン語のこれ以上の拡散を防ごうと躍起になっている。三年目を迎えるトランプ大統領は、メキシコとの国境に壁を建設すると公約し、これ以上のメキシコ系移民の流入阻止を狙っている。しかしながら、「スペイン語の逆襲」は当分やむことはないだろう。いや、それどころか、ヒスパニック系のスペイン語を話す大統領が誕生するのは時間の問題ともいわれている。

1848年に終結した米墨戦争に負けたメキシコは、肥沃な地域であるカリフォルニア地域などを米国に割譲せざるをえなかったという歴史的事実がある。大勢のメキシコ人が職を求めて米国に移住しようという現象はやむことはないだろう。彼らには言わせれば、「昔メヒコであった故郷に里帰りしているだけさ」と屈託なく話す。

サービス産業に携わるヒスパニック系労働者が働くレストランやファーストフード店で、日本人旅行者が英語ではなく、スペイン語で挨拶し、注文して話しかけるとサービスがアップすると言われている。読者の皆さんも一度試して実感してみることをお勧めする。

スパングリッシュSpanglish – 米国の新しい言語は定着するか?

ここで、今や米国のマイノリティーグループのトップに躍り出て、消費市場を支えているヒスパニックが話すスパングリッシュ(Spanglish)について、少し考えてみたい。

言語ほど文化の変化を示す役に立つ道具は他にない。英語は米国の公用語だが、今日のアメリカで人々が最も話す2つの言葉 – 英語とスペイン語をブレンドした新しい言語 – スパングリッシュを無視しては、今日のアメリカの正しい姿や米国で急成長しているラティーノ文化を理解することは不可能だ。

非公式の第2言語であるスペイン語は米国人にとって、西海岸から東海岸までの全米各地で、テレビ・ラジオで放送されるばかりではなく、多数のスペイン語による新聞・雑誌が販売され、町中や教室で目にしたり耳にしたりする最も身近な外国語である。

ところが奇妙なことに、エスパニョールは、イベリア半島で生まれた本来の形式では米国には伝わらなかったのだ。その代わり、全く新しい変質した形で入っていった。すなわち、驚くほどクリエイティブなコミュニケーションの道具として発達し、Spanglish として今日知られるようになった。

なぜかと言えば、人口統計上の劇的な変化、グローバリゼーションなどの原因の他に、特に私が挙げたいのは、全米を席巻している新たな「ラテンフィーバー」現象だ。本来、ラテン文化とはスペイン系の子孫によって受け継がれるものだが、米国に住む他の人々をも含むものになり、ラテンアメリカ全体やスペインさえも巻き込む共通の価値観に発展した。

ここで当然論争の的となるのは、リオ・グランデ川の北で話される英語以外の言葉を禁止しようと目論む支持者の言語である英語を、スパングリッシュが凌駕することだ。また同じように、マドリッドにあるスペイン国立言語アカデミーの擁護者は、このSpanglishは長く歴史のあるすばらしいスペイン語の「がん」になっていると考えている。

” Spanglish: The Making of a New American Language”という書籍を著し、ラテンアメリカ文化を専門とするAmherst 大学教授であるIlan Stavans氏はこう言っている。「米国には、英語、スペイン語、スパングリッシュを話す人々は多数存在する。今日では、学者達は毛嫌いするが、最近になってようやく政治家が意識するようになった。さらに、詩人、小説家や評論家が、スパングリッシュは米国の人口の多数を占める人たちの精神を理解する上で鍵になると思うようになった。」

また、こうも付け加えている。「ラティーノは英語を必死に学んでいる。しかし、このことは自分の本来の言語を犠牲にし、あるいは、英語との中間に位置するスパングリッシュという新しい言葉をあきらめるべきだ、ということを意味しているのではない。」

言い換えれば、変化を通じて言語は生き続けるのだ。そして、その言葉が生き残るにはアカデミックな面に頼ることではなく、米国人とは何かを表現し人々が集まる家庭、学校や職場、さらに音楽、テレビ、文学などの娯楽や文化面でどう浸透していくかにかかっている。

日本でしか通じない和製英語とは根本的な違いがあり、結論的に言えば、米国ヒスパニック文化に深く根ざした社会現象で、今後さらに若者を中心に定着しそうな勢いでますます進化するととらえるべきであろう。残念ながら、2004年末に米国で公開された映画”Spanglish”は、まだ日本では未公開である。

スペイン語がさらに国際語としての地位を確固たるものにするには、歴史が証明しているように、スパングリッシュ(Spanglish)を生んだ米国で今後も進化し生き延びていくであろうと考えられる。この意味で、米国で話されるスペイン語の今後の動向には目が離せない。

(参考資料)
・「アメリカのヒスパニック=ラティーノ社会を知るための55章」
(明石書店2011年初版3刷)
・「ヒスパニック不法移民と映画」(田中紀子 大手前大学論集 2014年)
・「人種化」する米国ラティーノと非合法移民-「ヒスパニック」から「ラティーノ」へー
(佐藤勘治 マテシス・ウニヴェルサリス 第19巻 第2号)