ラウンドテーブル報告「日本、中国とラテンアメリカ」 バーバラ・スターリングス米ブラウン大学教授 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

ラウンドテーブル報告「日本、中国とラテンアメリカ」 バーバラ・スターリングス米ブラウン大学教授


ラウンドテーブル報告「日本、中国とラテンアメリカ」バーバラ・スターリングス米ブラウン大学教授

【演題】「日本、中国とラテンアメリカ」
【スピーカー】バーバラ・スターリングス米ブラウン大学教授
【日時】 2019年6月13日 10:15~12:00
【場所】 日比谷図書文化館セミナールームA
【参加者】11名

バーバラ・スターリングス米ブラウン大学教授*は、長年、ラテンアメリカとアジア(主として日本、韓国、中国)の関係を継続的に研究しておられ、過去3年、北京の清華大学で春季講義を担当されている。

今回はその合間を縫っての来日で、最近の国際情勢および日本外交の変化を踏まえて、日本・ラテンアメリカ関係を捉え直してみたいとの意向であった。

*スターリングス教授は、1991年に当協会研究所の堀坂浩太郎所長と共編著で『ラテンアメリカとの共存―新しい国際環境のなかで』(同文館)を出版されているほか、多数の著書がある。最近、中国・ラテンアメリカ関係ついての著書も上梓されたばかり。

2000年代初頭まで、ラテンアメリカでの中国の存在感はさほど大きくなく、日本が数段上回っていた。しかし、2003年から2016年にかけて一気に中国ブームとなった。2000年に中国とラテンアメリカの貿易(輸出・輸入)は120憶ドルだったのに対して、日本は200憶ドルとほぼ2倍の規模であった。しかし、2018年には日本とラテンアメリカの貿易額が2倍に増えたのに対して、中国とラテンアメリカの貿易は25倍増加し、中国・ラテンアメリカの貿易額は日本の6倍に達した。

中国とラテンアメリカの貿易は、メキシコを除くラテンアメリカからのコモディティ輸出、中国からの工業製品輸入という構造であり、メキシコを除き、ラテンアメリカとの貿易収支はほぼバランスしている。メキシコと中国間はメキシコからの輸出はほとんど無く、中国からの輸入が大きいため、メキシコ側の大幅な赤字となっており、ラテンアメリカ・中国の貿易収支の赤字はほぼメキシコに起因する。この貿易統計はラテンアメリカ側データに基づくが、中国側のデータでは中国・ラテンアメリカの貿易収支はほぼバランスしている。その理由については、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)とも話したが、不明である。

中国は過去2回「対外援助白書」を公表しているが、援助統計の詳細は不明な点が多少なくない。最新の2014年度では、対ラテンアメリカ援助は約5億ドルとなっている(JICA研究所の北野尚宏氏他の試算も同程度の推計)。主なファイナンスの出所は、中国国家開発銀行と中国輸出入銀行であるが、国別の融資状況は公表していない。インターアメリカン・ダイアログ(IAD)とボストン大学の共同研究によると、2005年から2016年にかけて1.000憶ドル以上の借款があったとされている。

中国の直接投資(FDI)の統計は中国商務部が発表しているが、これは余り役に立たない。ECLACの推計では、2005年から2016年にかけて中国の対ラテンアメリカFDI は910憶ドル程度としている(12年間の累積額)。これらを集計すると、毎年中国からラテンアメリカに対して約200憶ドルの金融フローがあることになる。ラテンアメリカでこうした中国マネー(バンク・ローン)を受け取っているのは、ブラジル以外では、ベネズエラ、エクアドル、アルゼンチン(キルチネル政権時代)、ニカラグア、ペルー(ウマラ政権時代)など、国際金融市場へのアクセスが困難な国・状況である。

一方、中国のFDIの相手国は日本とほぼ同じ、チリ、ペルー、コロンビア、メキシコという太平洋同盟諸国が主である。中国にとってラテンアメリカは主に二つに分類されている。一つは、統計データに乏しく透明性に欠ける国々で、中国の独壇場となっている。もう一つは太平洋同盟やブラジルのように入札でプロジェクトを遂行する国々である。近年、中国はソフトパワーを利用してラテンアメリカにアプローチしている。2000年以降、首脳のラテンアメリカ訪問は20回を数え、習近平主席の訪問は4回に及ぶ。中国・ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)フォーラムも開催されている。

だが、中国ブームが去ったのと時を同じくして、ラテンアメリカは不況に陥っている。中国のラテンアメリカにおける存在は量的には大きいが、日本の関心とは対象分野が違っている。日本は天然資源に対する関心も強いが、製造業分野でも大きな存在感を示している。最近、「日本がラテンアメリカに復帰」という声も聞かれるが、今後、インフラなどの分野で中国とどのように競争して行くか注目している。

スターリングス教授の発題のあと、参加者との間で第3国経由の貿易、グローバル・バリュー・チェーン、官民のラテンアメリカに対する関わり方の違い、等について活発な意見交換が行われた。