日本人に有利なスペイン語の学び方 その1
執筆者:瀧澤寿美雄 (株式会社メヒココンサルティング)
・日本人に不向きな英語から相性のいいスペイン語を学ぶ
日本人は英語が苦手であるので、他の外国語も下手であると考えがちですが、これは大きな誤解です。楽器やスポーツにもいろいろあるように、自分に最も適するものを選択することは非常に重要です。球技は苦手でも陸上は得意とか、弦楽器は全く駄目だが吹奏楽器であればいけるという方がいるでしょう。
もし、日本人が英語ではなく、スペイン語を最初の外国語として中学生から学んでいたら、日本人は世界でも有数の外国語の得意な民族と世界中から称賛されていたかもしれません。言語体系から言っても、日本人には英語を聞き分け正しく発音するのは非常に不利なうえ、英語の持つ無秩序な綴りは日本人に容赦なく襲いかかります。
中学時代の英語の授業を思い出してください。日常会話で出てくる曜日でさえ、その綴りは複雑極まりないのです。Sunday, Mondayあたりはまだしも、Wednesday, Thursday,にいくとお手上げです。私は今でも記憶している単語の綴り方の一つに、「手足減る てあしへる」とローマ字式に覚えたteacherが忘れられません。教師という職業はそれほど過酷なのかと?
英語には綴りとは別に発音記号があってどの英和辞典にも記載されています。しかし、スペイン語ではその必要はなく、辞書を引かなければ発音やアクセント位置がわからないという英語独特のトラブルには遭遇しません。最近の西和辞典にはどういうわけか発音記号が記載されていますが、アクセサリーの域でしかなくはっきり言って意味がありません。事実、外国の英西・西英辞典では、スペイン語には発音記号はなく、英語のほうにだけあります。
・まずは身近なスペイン語から親しむ
実は、日本にはすでにスペイン語が生活の中にあふれています。私の好きなムード歌謡曲であるCómo está Akasaka? コモエスタ赤坂、zorro gris de la nocheソㇽロ
グリス デ ラ ノーチェ(夜の銀狐)、グループ名であるLos Indiosろス インディオス、Los Primos
ろス プリモス、サッカーJリーグにCerezoセレッソ(桜)大阪、大宮アルディージャArdilla(リス)、乗用車の名前にTantoタント(たくさんの)、Cimaシーマ(頂上)、Diamanteディアマンテ (ダイヤモンド)やディスカウントストアーのDon Quijoteドン・キホーテなど枚挙にいとまがありません。また、気象情報で頻繁に耳にするel niño
エる ニーニョ、la niña ら ニーニャなどはお馴染みです。さらに、有名なメキシコ人プロレスラーに、mil máscaras ミる マスカラス(千の仮面)、dos caras ドス カラス(二つの顔で二羽のカラスではない)など生活の隅々まで入り込んでいます。
ここで面白い例をあげましょう。両言語とも母音が同じ五つしかないので、同音で別の意味を偶然表す言葉があります。vacaバカ(馬鹿)、ajoアッホ(阿呆)、bacalaoバカらオ(タラ、馬鹿やろではない)、tabernaタベルナ(居酒屋で食べるなで覚える)、humedadウメダー(湿気で大阪の梅田ではない)、soledadソレダー(孤独でそれだではない)など。また、日常語のDameダメは「ちょうだい」の意味で、「駄目」ではありません。
笑えないのは日本人の名前で野瀬(能勢)さんの場合で、「あなたの名前は何ですか?Cómo se llama Vd.? コモ セ
リャーマ ウステー」に対しての答えが、「No sé ノセ(私は知りません)」では話が前に進みません。辛辣な例として、「加賀さんcaga カガ(cagar三人称単数で彼は・彼女は大便する)」。また、吉田さんは「Yoshida」綴るため、ヨとシダの間にポーズを入れてと発音すると、「YO SHIDA 私エイズ」になってしまいます。(AIDSのスペイン語はSIDA)このように同じ母音を持つスペイン語と日本語の儘ならぬ関係が生じます。ちなみに、略称の表記はスペイン語と英語は逆になります。英語の欧州連合のEU(European Union)は、UE (Unión Europea
ウニオン エウロペア)になります。
*このエッセイでは、発音できるようにカタカナで読み方を表記しますが、以下の原則があります。アクセントは太字で示します。語中や語末のrは、カタカナ表記ラ行の「ラリルレロ」で、巻き舌の語頭のrや語中のrrは、「ㇽラ、ㇽリ、ㇽル、ㇽレ、ㇽロ」で、lの音は、「ら、り、る、れ、ろ」の「ひらがな」で表します。日本人が苦手なr, rr, lの区別を日ごろから意識して発音することはとても大切です。例:rana ㇽラーナ(カエル)、locoろコ(狂った)、
peroペロ(しかし)、perro ぺㇽロ(犬)、peloぺろ(毛)
カナ表記でmuchoムーチョとか
ojoオッホと示してあるのは、下線部にアクセントがあり、強めに発音できるように便宜上補ったものであることをお断りしておきます。
・日本人がスペイン語を難なく話すための10のヒント
スペイン語がなぜ日本人には有利で学びやすい言語であるかという根拠とその学び方を以下の10項目にまとめました。このスペイン語の持つ言葉の仕組みの基本を理解すれば、短期間でスペイン語が不自由なく口をついて出てきます。この近道を通り集中学習すれば、団塊のシニア世代の方からこれからの日本を背負うヤング世代まで、スペイン語ならば短期間で日本人なら誰でも話せるようになるという自信がつきます。ひいては日本におけるスペイン語を学習する人数が増えれば、常に時計とにらめっこをしている日本人にもラテン的なゆとりが大切であると感じる人が増えるかもしれません。
スペイン語を学ぶ効用はいくつもありますが、同じヨーロッパで生まれた言語の英語とは違うので、新鮮味を感じて学ぶドキドキ感があります。特に団塊の世代の方には脳の訓練として、また、認知症予防対策としての効果が期待できます。一方、英語は苦手だが米国のポップカルチャーに興味津々の若者ならば、ジェニファー・ロペス、クリスティーナ・アギレラ、ピットブルやベニチオ・デル・トロなどの俳優や歌手の母国語がスペイン語であるので、さらに学習意欲が高まることが期待できます。
1.
スペイン語で最も重要なアクセントのルールから覚える
1単語につきアクセントの位置が一ヶ所決まっているのが原則です。このアクセントの位置を正確に押さえないと通じません。特に動詞部分はアクセントひとつで時制も人称も変化します。例として、canto カント(私は歌う)であり、cantóカント( 彼・彼女は歌った)にアクセントが移動しただけで意味が変わります。
アクセントの位置を常に意識する
① 母音s,
nで終わる語:後ろから2番目の音節を強く発音する
Señorita セニョリータ(独身女性)、uno ウノ(1)、domingo
ドミンゴ(日曜)、 lunes るネス(月曜)、Nosotros ノソトロス(私たち)、Jóven ホベン(若い)
※強+弱の二重母音は、一つの母音として数えるので①と同じ
historiaイストリア(歴史)、diccionario ディクスィオナリオ(辞書)
② s, n以外の子音で終わる語:最後の音節を強く発音する
profesor プロフェソール(先生)、natural ナトゥラる(自然な)
③このルールから外れる語はアクセント記号がつけられ、そこを強く発音する
teléfono テれフォノ(電話)、estación エスタシオン(駅)、sábado サバド(土曜)、Japón ハポン(日本)、japonés ハポネス(日本語、日本人)、Méxicoメヒコ(メキシコ)
音節の分け方について
音節とは、一気に発音される音声の最小単位で、母音を中心に子音が前後に増えて成り立ち、二重・三重母音は一個の母音とみなします。アルファベットのch,ll,rrの二重子音も一個の子音と数えます。
・強母音が二つ:caca/o
カ・カオ(ココア)、cano/a カ・ノア(カヌー)
・二重母音:ai/re アイ・レ(空気)、rei/na ㇽレイ・ナ
・母音の間に子音が一つ:ma/no マ・ノ(手)、fo/to フォ・ト(写真)
・母音の間に子音が二つ:ton/to トン・ト(ばか)、san/to サン・ト(聖人)
・母音の間に子音が三つ:mons/truo モンス・トルオ
(巨大な)
ins/tante インス・タンテ(即席の)
・ch,ll,rrがある場合:mu/cho ムー・チョ、caba/llo
カ・バ・リョ、
tie/rra ティエ・ㇽラ
・í,ú のある場合:enví/o エンビー・オ (私は送る)、
continú/o コンティヌー・オ(私は続ける)
スペイン語の特徴ある記号
・á,í,é,ó,ú:母音の上にアクセント記号がつく
África アフリカ(アフリカ)、difícil ディフィスィる(難しい)、inglés
イングれス(英語、英国人)、cantóカント(うたった)、últimoウるティモ
(最後の)
・ñ: スペイン語の最も大事なアルファベット「エニェ」
españolエスパニョる(スペイン語)、 España エスパーニャ(スペイン)
・güe: pingüino ピングイノ(ペンギン)、bilingüeビりングエ(バイリンガル)
・疑問符は文頭にも逆さにつく ¿:¿ Cómo estás ? コモ
エスタス(元気?)
・感嘆符は文頭にも逆さにつく¡:¡Nos gusta ! ノス グスタ(私たち好き)
2.
母音は日本語(アイウエオ)と同じ5つのみ(a,e,i,o,u)!
発音もほぼ同じ!
a,i,e,oは日本語とほぼ同じ発音で構いません。uのみ例外で、口をすぼめてろうそくの火を噴き消す感じです。あの有名な有馬徹とNoche cubanaノーチェクバーナ(キューバの夜)が演奏するEl mamboエルマンボの中で、「ウ」と掛け声を叫ぶところがありますが、あのuの音です。口をとがらせて一気に吐き出す強い音です。
日本語と異なるuの音をしっかり練習する
・u の母音例:Túトゥ(君)、Cubaクーバ(キューバ)、cunaクーナ(ゆりかご)、
últimoウるティモ(最後の)
・a,e,i.oの母音の例:amor アモール(愛)、camaカマ(ベッド)、
pepino ぺピーノ(きゅうり)amigo アミーゴ(友人)
二重母音が落とし穴
母音には強母音a,e,oと弱母音i,uの二種類あり、組み合わせにより次の四つに分かれ、二重母音になる
1) 強+弱 ai,ei,oi,au,eu,ou
2) 弱+強 ia,ie,io,ua,ue,uo
3) 弱+弱 iu,ui 4) 強+強 ao,ae,ea,eo,oa,oe
二重母音はひとつの母音と同等に見なされます。たとえば、patioパティオ(中庭)はイオを一息で発音することを覚えてください。paseoパセオ(散歩)の場合は、二拍で発音します。スペイン語には二重母音の単語が多いのでこの原則をしっかり理解することは大切です。これに加え三重母音の単語があり、ほとんどは動詞の二人称複数の活用形で、estudiáisエストゥディアイス(君たちは学ぶ)のほかに、南米の国であるUruguayウルグアイ、Paraguayパラグアイなどです。
3.
25ある子音の一部を除き、スペイン語はローマ字読みで構わない
ほとんどローマ字読みで構いませんが、少し異なる間違いやすい綴りに注意する必要があります。
*注意すべき子音の読み方と綴り(*は注意すべき子音)
b べ |
banco バンコ(銀行) libro りブロ(本) |
c セ* |
centro セントロ(中央) cine スィーネ(映画) cara カラ(顔) comida コミーダ(食事) cincoスィンコ(5) |
chチェ* |
mucho ムチョ(たくさん)muchacho ムチャチョ(少年) |
d デ |
dinero ディネロ(金)donde ドンデ(どこ)dos ドス(2 salud サるー(健康)ciudad スィウダー(都市) |
fエフェ |
foto フォト(写真)famoso ファモソ(有名な) |
g へ* |
gato ガト(猫)gracias gente ヘンテ(人々) gigante ヒガンテ(巨人) |
hアチェ* |
hotel オテる(ホテル)hospital オスピタる(病院) |
j ホタ* |
Japón ハポン(日本)jamón ハモン(ハム) reloj ㇽレろー(腕時計) |
k カ |
kilómetroキロメトロ(キロメートル) |
l エれ |
luna るナ(月)pelo ペろ(毛)paloma パろマ(鳩) |
ll |
llave リャーベ(鍵)lluvia ジュビア(雨) |
m エメ |
mesa メサ(机)mano マノ(手)medio メディオ(真中) |
n エネ |
noche ノーチェ(夜) nombre ノンブレ(名前) |
ñエニェ |
niño ニーニョ(子供) mañana マニャーナ(明日) |
p ぺ |
pero ペロ(しかし)padre パードレ(父) |
q ク* |
que ケ(何) |
rエレ ㇽレ* |
cara カラ(顔) pero ペロ(しかし) ruso radio ㇽラディオ(ラジオ) rico ㇽリコ(金持ちの) reina ㇽレイナ(女王)rosa ㇽロサ(バラ) |
rr |
perro ペㇽロ(犬)tierra ティエㇽラ(土地) guitarra |
s エセ |
seis セイス(6) sombrero ソンブレロ (帽子) |
t テ |
tres トゥレス(3) todo トード(すべて) |
v ウベ |
nube ヌーベ(雲)nieve ニエベ(雪) |
w ウベ ドブレ |
Washington ワシントン whisky ウイスキー |
x エキス* |
examen エクサメン(試験)exacto エクサクト(正確な) explicar エスプりカール(説明する)oxxoオクソ(コンビニ) |
y ジェ |
ya ヤー(もう)ayer アィエール(昨日)y イ(そして) |
z セタ |
zapato サパト(靴) zorro ソーㇽロ(狐)luz るス(明かり) |
*
y をi griega(イグリエガ)、i をi latina(イラティナ)と呼ぶことがあります。
スペイン語とカタカナ表記の対照表(□で囲んだ所は間違いやすい綴り)
あ行 a
e i o u ア エ イ オ ウ
カ行 ca que qui co cu カ
ケ キ コ ク
ガ行 ga gue gui go gu ガ ゲ ギ ゴ グ
サ行 za ce ci zo zu サ セ スィ ソ ス
チャ cha
che chi cho chu チャ チェ チ チョ チュ
グ行 güa güe güi güo グァ グェ グィ グォ
ハ行 ja je ji jo ju ハ ヘ ヒ ホ フ
ge gi ヘ ヒ
ジャ行lla
lle lli llo llu ジャ ジェ ジ ジョ ジュ
(又はリャ行で発音する リャ リェ リ リョ リュ)
ヤ行 ya
ye yi yo yu ヤ エ イ ヨ ユ
X行 xa xe xi xo xu (ク)サ (ク)セ
(ク)シ (ク)ソ (ク)ス
無音 ha he
hi ho hu ア エ イ オ
ウ
間違えやすい発音例
que qui:qué ケ(何)、pequeño ペケーニョ(小さい)、quién キエン(誰)
cua cue:cuánto クアント(どれほど)、cuento クエント(物語)
cuatro クアトロ(4)、cuarto クアルト(部屋)
rr r:correo コㇽレオ(郵便)、río ㇽリオ(川)、rey ㇽレイ(王様)
ja jo:Japónハポン (日本)、viejoビエッホ (年老いた)
ña ño:muñeca ムニェカ(人形)、baño バーニョ(トイレ)
ha he hi ho:hay アイ(~がある)、hermanoエルマノ(兄弟)、
hielo イエろ(氷)、hoyオイ(今日)
スペイン語は原則としてローマ字式の表記なので、発音記号はありません。例外さえ理解すれば、あとは型通りに覚えるだけで十分です。以下の疑問詞を例に挙げて読み方を再確認しましょう。必ず疑問詞はアクセント、acento(アセント)を伴います。
疑問詞
quién(es): キエン、キエネス(誰)
qué:ケ(何、どの)
cuál(es):クアル クアレス(どれ、どの)
cuánto(a,os,as):クアント(タ、トス、タス)どれだけ
cuánto:クアント(どれほど、いくら)
cuándo:クアンド(いつ)
dónde:ドンデ(どこで)
cómo:コモ(どのように)
por qué ポルケ:(なぜ)*英語のwhyに相当、混同しやすいporqueはbecause
(なぜなら)に当たる