『熱狂と幻滅 ―コロンビア和平の深層』田村 剛 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『熱狂と幻滅 ―コロンビア和平の深層』田村 剛


コロンビアで後に正式にFARCと名乗る武装農民等による「コロンビア革命軍」が結成されたのが1964年、内戦状態になったが、1984年のベタンクール政権との間で停戦協定が成立し、FARCは一旦は政党を設立したものの90年には武力闘争再開となった。97年には右派民兵組織AUCが結成され、反政府「4月19日運動(M-19)」や「民族解放軍(ELN)」と政府間で和平交渉と合法政党結成、破綻が繰り返された。結局政府とFARCとの和平協定締結・停戦は、サントス政権の2016年8月に成立したが、10月の国民投票では和平合意は否決された。しかし、サントスがノーベル平和賞を受賞したこと、一部修正した新たな和平合意を上下院が11月に承認したことから、17年にFARCの武装解除が完了して合法政党へ移行し、停戦合意が成立した。ローマ法王フランシスコの訪問を経て、18年にはFARC候補が大統領選挙出馬を断念、国会議員選挙では大敗した。さらに和平合意の見直しを掲げたドゥケ大統領が就任し、19年1月にはELNによるテロの後にドゥケ政権はELNとの和平交渉打ち切りを決定した。
このような紆余曲折は、国民の多くに政府・ゲリラ組織・右派民兵組織そして麻薬組織の三つどもえ、四つどもえの殺人、誘拐、恐喝等の暴力、憎悪の応酬の連鎖の記憶が拭えないからである。「決してFARCを許したって訳ではないが、平和のために賛成した」という苦渋の選択で平和協定に漕ぎ着けたが、「合意一つでそう簡単に許されない」という相克が国民の間に依然根強くある。
著者は2014年から18年の間朝日新聞サンパウロ支局長を務め、コロンビアの密林の中のゲリラ、その戦闘員達へもインタビュー、麻薬事情、和平合意の経過と国民投票、なお癒えぬ多くの被害者の傷を聴取し、サントス大統領へのノーベル平和賞をめぐる賛成・反対派の反応、武装解除とその後の社会復帰の壁を精力的に取材した。このルポルタージュは、コロンビアの和平合意に至る複雑な経緯と、多くの勢力の利害の交叉、複雑な国民間の感情が絡み合っていて、まだ和平の道は半ばであること、定着するのが容易ではないことを明らかにしている。

〔桜井 敏浩〕

(朝日新聞出版 2019年6月 246頁 1,500円+税 ISBN978-4-0225-1618-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年夏号(No.1427)より〕