著者は、京都産業大学文化学部国際文化学科教授で、スペイン語圏文学の研究者。2004年に再度学外研究員として1年間ラ・プラタ国立大学で過ごした後、2006年に再訪した際にアルゼンチンでスペイン語俳句が普及していて、ブエノスアイレスでは2000年以降隔年で国際ハイク大会が開催されていることを知った。人々の文学・芸術理解、細やかな季節感、日本文化への親しみの果実であるアルゼンチン・ハイクの生成に関心をもち、ハイクを通じてアルゼンチンがスペイン、メキシコ等他のスペイン語圏とも交流関係があることから、スペイン語圏全域でのハイクの受容のプロセスの調査研究に着手した。
本書ではその研究成果を、アルゼンチンへ渡った日本人移民によって俳句が3行詩としてスペイン語で普及活動が始まり、俳諧がアルゼンチン文学者に受容され、アルゼンチンという土地でハイクが生成し、現在アルゼンチン・ハイク作家が活躍していること、日本とアルゼンチンで異なる季語感があるが、他の国際ハイクと同様に俳諧の連歌から直接の影響を受けて成立したスペイン語詩の新しいジャンルとなっていることを明らかにしている。さらに国際ハイクの季語と歳時記、スペイン語ハイクの韻律を論じ、俳句の普及による価値観の変化を詩型の意味と環境史から見た俳句の成立と普及に触れている。最後にアルゼンチン・ハイクの展開を連句のワークショップでの作品例や連句をアルゼンチン・タンゴでの踊り手男女の阿吽の呼吸で、アルゼンチン口承詩との比較で説明して理解を得たことなど、地球の反対側で俳句が受容されアルゼンチン・ハイクとして結実されたことを紹介している。
〔桜井 敏浩〕
(丸善プラネット 2019年3月 248頁 3,400円+税 ISBN978-4-86345-409-5)
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年夏号(No.1427)より〕