世界全体の都市を、統治力、経済力、構築技術の3要素が作用し合った時間の地層が積層し、成長変化したものとして形成の過程を俯瞰することを意図して、5大陸30都市を取り上げて解説したもの。第1部「都市の地層と年輪」では、世界の時間の流れのなかで、取り上げた30都市がどのように登場し、成長していったかを概説し、その歴史的な地層がどのように都市の内的な空間構造を形成してきたかを展望する。第2部では具体的に30都市の、都市空間の形成、都市・建築、社会・文化の特徴を、写真、地図、図版を用いてそれぞれ2~8頁で解説している。
ラテンアメリカからは、リオデジャネイロ、ブラジリア、クリティバのブラジル3都市とアルゼンチンのブエノスアイレスを取り上げている。リオデジャネイロは中南米唯一のポルトガル語国家にあって欧州の植民地都市の洒落っ気とアフリカの陽気の混血都市であることを、ブラジリアはブラジル全土の開発のために中央高原に遷都するために、荒野に新たに造られたモダニズムの理想都市を目ざしたものであることを、クリティバは人口の急増に対処し持続的な計画により人間中心の環境都市として整備されてきたことを明らかにしている。ブエノスアイレスは、1816年のスペインからの独立を契機に欧州風の街の建設が進展し、南米のパリと呼ばれる景観が出来上がったが、近年はラプラタ河口の港湾地域の再生で新しい都心が造り出されている。
都市について、単に都市デザイン、都市計画を述べた類書と異なり、都市の形成と現在、そこにある社会と文化をも知ることができ、他の大陸の都市と比較しつつ一覧していくのも面白い。
〔桜井 敏浩〕
(彰国社 2019年4月 215頁 2,850円+税 ISBN978-4-395-32131-5 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年夏号(No.1427)より〕