【演題】「最近のコロンビア政治経済情勢」
【講演者】森下 敬一郎 駐コロンビア特命全権大使
【日時】2019年7月29日(月)15:00~16:30
【場所】航空会館 5F 会議室
【参加者】約70名
コロンビアより一時帰国された森下敬一郎大使をお招きし、日本コロンビア友好協会との共催で講演会を開催しました。講演の内容は以下の通り。
2018年8月に大統領決選投票での勝利を経て、ウリベ元大統領の民主中道党に属する42歳のドゥケ新大統領が就任。同氏は米州開発銀行(IDB)での職歴があり、議員は一期務めている。父は元大臣、州知事。合気道、坂本龍馬が好きで、大前研一の著書にも目を通し、アベノミクスについて安倍総理より直接話を聞く事を望んでいる。閣僚の半数は女性、また外相以外の大臣はテクノクラートが占める。在日経験のあるトゥルヒージョ外相、バレンシア農業・地方開発相、祖父が元駐日大使であるレストレポ商工観光相など、日本とゆかりのある閣僚も複数存在する。
独立以来、コロンビアでは保守党・自由党の2大政党が存在したが、1991年にその体制が崩壊。昨年は右派と左派、すなわち既存勢力と反体制派が国を二分して戦う形となった。ドゥケ大統領は汚職対策を公約に掲げ勝利し、国の一体化に努めている。新政権もう一つのテーマは、コロンビア革命軍(FARC)との和平合意の修正。修正は国民の間で望まれているものの、いかにそれを進めてゆくかが課題。
新政権は、現行の自由貿易枠組の継続や基本的な外交方針の維持はを表明しつつも、新規の自由貿易協定(FTA)の締結には慎重な姿勢を見せている。
具体的政策としては、
1.経済社会政策
格差の是正。投資拡大及び生産性向上の為の税制改革、知的産業分野-いわゆるオレンジ経済の推進等。
2.和平・治安対策
FARCとの和平合意の一部修正・適正化(ただし、議会の合意が得られるかは不明)。
3.外交政策
ベネズエラ難民という難題を抱え、ベネズエラ・マドゥーロ政権に対しては強硬姿勢を崩していない。欧米との従来の関係を維持しつつ、アジア・太平洋の市場開拓、関係強化を目指す。現在、大統領は中国を訪問中。
また、内政課題としては、犯罪対策、汚職対策、少数与党等が挙げられる。
2018年の外交関係樹立110周年を記念し、更なる関係強化のため、ロスアンデス大学に学術・ビジネス拠点となる日本センターを開設。2019年は日本人のコロンビア移住90周年であり、10月に記念行事を開催。首脳間外交では、2014年安倍総理が現職総理大臣として初めてコロンビアを訪問し、両国の政治経済関係が深化をアピールした。日本からの投資も着実に増えてきており、最近は宅配事業などへの投資が行われている。今月末にはコロンビア産アボカドの輸出が解禁となった。
日本側はコロンビアのTPP11(CPTPP)への参加を歓迎する立場。コロンビアも前大統領時代にTPP加入申請をしたが、ドゥケ大統領は新規FTAには慎重姿勢をとっているため、日本の呼びかけに対しても消極的な反応。これまでのFTA実績では、特に韓国とのものが不評で、左派のみならず中道派からも批判の的となっている。日本とのEPA交渉は2012年より行われており、新政権後も続いている。18項目のうち16項目まで合意に達しているが、マーケットアクセスと原産地規則で意見の隔たりがある。
日本政府は、1989年から現在まで700件のプロジェクトを実施し、総額6,000万ドルを超える支援を展開。そのうち、地雷除去対策関連では、コロンビア関係者のラオス研修への招聘も行っている。来月には新たな機材をコロンビアへ送る予定。また、公立図書館の1割に相当する150館の図書館を建設。円借款はインフラ整備の面でも効果的だが、先ずはそのための条約が必要で、現在、政府間での交渉が行われている。
対中関係、ドゥケ大統領の支持率の動向、ベンチャービジネスへの優遇措置、議会で議席を有するFARCへの対応、サントス元大統領の影響力、インフラ需要の財源、ICTへの外資の投資状況、ソフトバンクなど中南米ファンドの動向、医療・農業分野への支援、ドゥケ大統領の議会対策のシナリオ、税制などの質問がだされた。会場からは、EPAの早期実現を望む声も上がった。