『ヴィーダ -遺棄された者たちの生』 ジョアオ・ビール | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ヴィーダ -遺棄された者たちの生』 ジョアオ・ビール


ブラジル南部ポルトアレグレ市で麻薬の売人だった男が聖霊の導きによって開設したという保護施設、ラテン語で「生」を意味するヴィーダには診療所も設けられ、薬物やアルコール依存症者、家族との繋がりを絶たれた人、死を待つだけとなった人たちが収容されている。いわば貧困という道の行き着く果てである。

同じリオグランデドスル州で生まれ人類学、宗教学を学び、医療人類学を専攻する著者(現米国プリンストン大学教授)は、ここで入所者の一人でノートに言葉を書き紡ぐカタリナに注目する。カタリナの書き綴る文字、医療記録、そして彼女との対話によって家族、家などについて聞き出していくうちに、彼女の人生が次第に明らかになったが、カタリナは長く施設で生活した後、ある夜母親の名を呼び続け、翌朝亡くなった。人類学者の著者が初めて会って以来6年後に亡くなるまでの間に語り合い調べた貧困の記録であるが、一人の女性の生き様を追い、人間としての尊厳を取り戻す過程で、家族と医療制度の密接な関係、ブラジルの政治経済情勢の変化に隠された側面を解明しようとした実録。

〔桜井 敏浩〕

(トルベン・エスケロゥ写真 桑島薫・水野友美子訳 みすず書房 2019年3月 679頁 5,000円+税 ISBN978-4-622-08786-1 )