1976年12月に起きたジャマイカのレゲエ歌手で国民的英雄となったボブ・マリーの暗殺未遂事件の真相を小説として再構成した、ジャマイカ出身の作家の長編小説。第一部では無鉄砲な行動にでる若者たちの登場、第二部でマリー(本書では「歌手」と記され、実名は出していない)が自宅スタジオでリハーサル中に暴漢に銃で撃たれた暗殺未遂事件当日、第三部は事件後2年ほど国外に逃れていたマリー1979年に帰国し、対立するギャング団の和平仲介もするが、暗殺未遂実行犯の若者たちは処刑され、抗争がぶり返したことを、米国のジャーナリストが語る。第四部は1980年代のニューヨークでコロンビア産コカインの密輸にジャマイカのギャング組織が進出し、第五部でも1991年にその首領が米国からの圧力でジャマイカで逮捕されて米国に引き渡し請求が出た時期を述べているが、各章のタイトルにレゲエやポップ・ミュージックのタイトルが用いられている。
ジャマイカの二大政党の抗争が続いた政治的な情勢、ギャング勢力の抗争、ボブ・マリーが熱心に信仰していたラスタファリアン(奴隷の子孫であるジャマイカの人たちのアフリカ帰還信仰宗教であり、生活様式・生活信条ないし社会運動の側面も持つ)などの背景について、巻末の「訳者あとがき」で13頁にわたって詳細な解説が付いていて、読者の理解を助けている。
〔桜井 敏浩〕
(旦 敬介訳 早川書房 2019年6月 719頁 6,000円+税 ISBN978-4-15-209867-2)