『中央銀行の罪-市場を操るペテンの内幕』 ノミ・プリンス - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『中央銀行の罪-市場を操るペテンの内幕』 ノミ・プリンス


2007~08年の世界金融危機を期に、他人の金で常習的に無謀な賭けをしてきた金融界に世界各国の中央銀行は銀行救済の名により市場に大量のマネーをつぎ込み、やがて市民生活を脅かすことになる金融界の暗部を、日米欧州、メキシコ、ブラジル、中国で取材し、中央銀行と金融界の結託の危険なギャンブルの実態を暴いている。中国、日本、欧州とともに、米国金融危機の影響を防ぐ術がないメキシコ(49~111頁)と米国・中国の間で綱渡りをしているブラジル(112~167頁)が取り上げられている。
常に中銀としての国内の責務と米国のFRBの要求のバランスを取る必要性があるバンコ・デ・メヒコ総裁の苦悩を、2007年の米国の景気後退から、インフレへの対処のための政策金利引き上げ、米銀のせいで発生した信用収縮と為替変動性の高まり、国内の流動性増大のための量的緩和、その後の2015年に至る外国資本の流れと通貨戦争、FRBの政策に翻弄され、そして最後にトランプ政権の国境の壁やNAFTA協定の見直し等の対メキシコ外交強行姿勢に言及して米国の金融当局の決定に振り回された姿を明らかにしている。ブラジルについてもまた、2003年にルーラ大統領に中銀(BCB)総裁に任命され後に財務大臣も務めて、2017年秋に翌年の大統領選挙に立つために退任したメイレレスの指揮の下で、この間ブラジルが地域大国の地位から経済が弱体した政治的不安定な国に変動した姿を描いている。
著者は 『大統領を操るバンカーたち -秘められた蜜月の100年』(早川書房 2016年)の著書もあるリーマン・ブラザーズやゴールドマン・サックスにも勤務経験がある米国のジャーナリスト。

〔桜井 敏浩〕

(藤井清美訳 早川書房 2019年6月 443頁 3,000円+税 ISBN978-4-15-209866-5)

〔『ラテンアメリカ時報』 2019年秋号(No.1428)より〕