『メキシコにおける聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝の変遷史 -神の沈黙をこえて』 川田 玲子 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『メキシコにおける聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝の変遷史 -神の沈黙をこえて』  川田 玲子


慶長元年(1597年)2月5日に切支丹弾圧により長崎で磔にされて殉教し、1862年に列聖された26聖人の一人にメキシコ市生まれのスペイン人(クリオージョ)フェリーペ・デ・ヘススは、メキシコ出身の最初の聖人であることから、処刑後暫くして崇拝が始まり、クリオージョのシンボルとなり、聖フェリーペ・デ・ヘスス崇拝が定着した。19世紀中には 2月5日は国民の宗教の祝日とされたが、メキシコ独立後政教分離を掲げた政府により1859年の国民の祝日の法改正で外されてしまった。
19世紀に教会堂に収められた聖フェリーペ像、20世紀における聖フェリーペ崇拝の大衆化と普遍化、メキシコ各地に遺された聖画や20世紀に新たに建立されたその名を冠する教会堂、その他の教会に納められた聖フェリーペ像を調査し、移りゆく時代の中で生じ広がった事象を比較することによって、一般的歴史文献学をより豊かにヴァーチャルにすることを試みた労作。各地で収録した実に多くの聖フェリーペ・デ・ヘススの図像写真が圧巻である。著者は征服期以降現在に至るまでの聖人聖母崇拝史、図像研究を専門とし、メキシコ国立自治大学で歴史学修士、ラテンアメリカ研究科で博士課程を修めた気鋭の研究者で、現在は滋賀大学等の講師。

〔桜井 敏浩〕

(明石書店 2019年2月 586頁 8,800円+税 ISBN978-4-7503-4785-1)

〔『ラテンアメリカ時報』 2019年秋号(No.1428)より〕