旧大陸世界との交流なしに独自に発展したメソアメリカとアンデス文明は、世界四大文明に匹敵するオリジナルな文明である。それらの研究は旧大陸やコロンブスとの接触後の西欧文明との比較だけではなく、編者らによる環太平洋の環境文明史研究が行われ、さらにこれまで個別に研究され深化してきたことにより、中南米の両文明を体系的に比較する機運が熟してきた。それも先スペイン期から植民地時代を経て現代に至るまで、両古代アメリカ文明を高精度の編年を基に社会変化を通時的に比較するだけではなく、それらが先住民とその表象に及ぼした影響、さらには後世の人々がいかに能動的に古代文明に向き合い自分たちに役立つ資源として再認識していくかという「資源化」という過程にも目を向けている。
第1章ではメソアメリカ文明の起源と盛衰を環境・気候変動とともに最新の科学的調査の成果を得て論じ、第2章ではアンデス文明についてはナスカの地上絵研究を中心に比較文明論を展開している。第3章では植民地時代から現代まで中南米先住民文化に及ぼした「資源化」を、植民地歴史文書や17世紀のペルー北部海岸における先住民首長たちの過去認識、観光開発と博物館、織物、民間医療など様々な切り口から実証しようとしている。編者による第4章では総勢56名の執筆陣が論じた各項から見えてきた両文明の特徴、類似点と差異、そしてこの研究の今日的意義を纏めている。参加者の真摯な研究意欲が感じられる総合的な中南米古代史論集。
〔桜井 敏浩〕
(京都大学学術出版会 2019年9月 446頁 4,200円+税 ISBN978-4-8140-0238-2)
〔『ラテンアメリカ時報』 2019年秋号(No.1428)より〕