『宣教と改宗 -南米先住民とイエズス会の交流史』 金子 亜美 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『宣教と改宗 -南米先住民とイエズス会の交流史』  金子 亜美 


スペイン、ポルトガルによる植民地化が拡大した16世紀、公式事業の一つとして先住民のキリスト教化が展開された。パラグアイ川上流域、現在のボリビア南東部のチキトス地方のサンタクルス・デ・ラ・シエラへもイエズス会士が「ミッション」として布教を行うために入り、各地に築いた布教区で先住民が改宗キリスト教徒として定住した。
それまでは先住民がもっていた信仰と慣習を伝導師たちが先住民と接触してキリスト教化し規律的な生活様式に導いたが、それには現地のチキト語での宣教と、欧州から持ち込んだ音楽・楽器が大きな役割を果たした。現在でも食物とチチャ(トウモロコシ酒)、そして音楽を奏でて祭りにやって来る訪問客を持てなす慣行は、かつてイエズス会士によって模倣されたチキトス先住民同士の歓待と饗宴の慣習を想起させる。
チキトス地方の布教区において17世紀から18世紀にかけて先住民が経験したキリスト教との接触の歴史研究である本書は、東京芸大で音楽楽理を学び、東京大学で文化人類学を修め、現在は宇都宮大学助教である著者の2年間の民族誌的現地調査とスペインでの文献・史料調査を踏まえた、小冊子ではあるが興味深い内容である。

〔桜井 敏浩〕

(風響社 2018年10月 55頁 600円+税 ISBN978-4-89489-407-5)

〔『ラテンアメリカ時報』 2019年秋号(No.1428)より〕