『外交と移民 -冷戦下の米・キューバ関係』 上 英明 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『外交と移民 -冷戦下の米・キューバ関係』  上 英明


1959年のキューバ革命による劇的な社会の変化に反抗して、革命直後から現在に至るまで国外に多くのキューバ人が移動した。その多くはフロリダ海峡の対岸マイアミ市に巨大なキューバ人社会を構成して、現在に至るまで米国の外交・内政に頻繁に介入している。米政権の対キューバ外交政策の変化にともない、時には両国関係の関係改善の動きに反発し、キューバへの武装勢力の侵入の企ては革命直後の1961年のピッグス湾侵攻失敗以後も、両国以外の政府をも巻き込んで何度も外交危機を引き起こした。その間もフィデル・カストロ政権と米政府、在外キューバ人社会との対話の試みはあった。冷戦下でカーター政権は人権問題優先策に転じた際には、1980年にキューバ政府がマリエル港を開放し出国自由としたところ数百の小舟でわずか半年の間に124,784人のキューバ人が脱出、米国はこれを受け入れざるを得なくなった。これはヒュ-マンドラマではなく移民危機をめぐる熾烈な外交闘争であったが、一方でワシントンがマイアミのキューバ移民社会を制御出来なくなってきたことも露呈した。続くレーガンは1983年のマイアミのキューバ独立式典に合衆国大統領として初めて参列するなど、キューバ人反革命勢力の世界観と親和的であったが、62年のケネディ=フルシチョフ了解の根幹をなすキューバ不可侵を堅持し、カストロとは硬軟の対応で接触も試みていた。冷戦終結以降も膠着状態が続いたが、2014年12月のオバマ大統領が反対の声もあった中で劇的なキューバ訪問を実行したことは、歴史的転換としてキューバ国民の97%が、米国の回答者の63%が国交回復を支持した。
本書の著者は神奈川大学外国語学部准教授、米国、キューバ、キューバ移民社会の英語・スペイン語の膨大な資料を丹念に読み解き、キューバから米国への人の移動がどのように両国関係と外交に影響を及ぼしてきたかを実に丹念に解析した労作。

〔桜井 敏浩〕

(名古屋大学出版会 2019年5月 356頁 5,400円+税 ISBN978-4-8158-0948-5 )

〔『ラテンアメリカ時報』 2019年秋号(No.1428)より〕