米州大陸で最大の黒人人口を持つのはブラジルであり、アフリカから奴隷貿易で拉致されて来て以来、逆境の中で父祖の地アフリカに活路や着想を見出そうとする肯定的な姿勢と、アフリカ的なものを敬遠して封印しようとする否定的な態度が交錯してきた。本書では19世紀から1970年代のブラジルで黒人が見せてきた地位向上、境遇改善、自己認識における「アフリカ」の捉え方を、19世紀おけるブラジルからアフリカへの帰還、1920、30年代のサンパウロでの黒人新聞、黒人運動、1960、70年代の黒人解放思想を見ることで、米国と共通する時代背景と米国とは異なる地域的要因がそれぞれの局面で関わった「黒人大国」のジレンマを明らかにしている。その状況は時代の移り変わりで変動してきたということ以上に、ブラジル固有の状況の反映であり、ブラック・ディアスポラとアフリカとの関係は、米国やカリブ地域とは異なるものであった。
著者は国際政治の政治学者として、特にアフリカとポルトガル語圏を見てきた、上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授の慶應義塾大学法学博士学位請求論文。
〔桜井 敏浩〕
(矢澤達宏 慶應義塾大学出版会 2019年6月 256頁 5,000円+税 ISBN978-4-7664-2596-3 )