連載エッセイ35:南米南部徘徊レポート その4 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ35:南米南部徘徊レポート その4


連載エッセイ34

南米南部徘徊レポート その4

執筆者:硯田一弘(アデイルザス代表取締役、パラグアイ在住)

「1950年代のベネズエラの映像」 11月23日発信

面白い映像が見つかりましたので、ご紹介します。

1956年当時世界最大級だったベネズエラのCreole石油に赴任した米国人技術者の着任直後の様子を紹介する短編映画「Assignment:Venezuela」です。

その内容をざっと紹介します。
主人公は立派なマラカイボの街に感心し、米国と同じシアーズ百貨店や中古車販売店があるのに驚きます。合衆国が建国200年を迎える20年近く前、マラカイボの街は400年の歴史を持つことが凄いと感心。こんな立派なホテルに泊まるのは初めてで、一泊だけなのが残念と話します。

マラカイボ湖東岸のLagunillaで仕事をする主人公、立派なインフラに驚いています。当時は随伴ガスを有効利用する技術が無かったので、地下に戻すプラントが湖上に作られていました。92%の社員がベネズエラ人なのでスペイン語の習得は必須と話しています。このころは英語を話すベネズエラ人が少なかったことが判ります。

筆者が初めてベネズエラに赴任した1988年、石油関連事業のみならず、あらゆる業種の人達が流暢な英語を操っていました。これは70年代に石油関連産業が国営化され、そこから得られた収益を国費奨学金として一般家庭の子弟を欧米に留学させていたからです。教育が国を作る見本のようなイメージでした。結果的に当時のベネズエラでは仕事でスペイン語を話す必要がなく、それが自分のスペイン語を下手にしたと今でも言い訳しています。

カラカスに転勤予定のベネズエラ人社員の豪華な社宅に入ることを期待したものの、チャンスを掴めずガッカリ。米国人とベネズエラ人の待遇が同等であることも今や驚くべきこと。

完成したばかりの世界最大級Amuay製油所(60万BD)。Cardón製油所と併せて95万BDの能力を持つParaguaná製油センターは今でも世界最大級の製油基地ですが、チャベス政権以降正しいメインテナンスが行われず、今や生産実績は能力の三分の一以下に低下しています。

当時世界で最も先進的なカラカスの高速道路。最高制限速度は80㎞/h。日本の道路の最高速度が60㎞/hになったのは1960年です。日本の建設省や東京都の職員が大勢視察に訪れていたそうです。 アルタミラ広場のある東市街地は10年前はコーヒーとサトウキビの畑だったとのこと。懐かしい映像テンコ盛りです。

この時代から90年代まで、ベネズエラは世界でも最も裕福な国の一つでしたが、チャベスと後継者達がバラマキ政治を続けた結果、僅か20年で世界最貧国の一つに転落したのは悲しいこと。

「1950年代のパラグアイの映像」 11月23日発信
 
ほぼ同じ時期1958年のパラグアイを紹介した映像も見つけました。

こちらは南米最貧の国として紹介されており、後半ではチャコ地方の牧童たちがアスンシオンまで牛を出荷する様子が紹介されています。先週お伝えした通り、パラグアイは江戸時代末期には南米で一番の先進国でしたが、ブラジル・アルゼンチン・ウルグアイとの三国戦争に敗れて凋落、半世紀で南米最貧国に転落し、その後は逆に不要なインフラ投資などでの借金を作らなかった為に、現在は着実に成長路線を歩んでいます。

「カルテス前パラグアイ大統領にブラジル司法が逮捕状」 11月23日発信

今週は、ブラジル警察がラバジャット事件への関与を理由にパラグアイの前大統領Horacio Cartes氏に逮捕状を出しましたが、パラグアイでは、何でこのタイミングでブラジルが斯かる行動に出たのか、全く意味不明と捉えられています。ラバジャットへの関与という点なら、ベネズエラのマドゥロ政権関係者やアルゼンチンのキルチネル元・前大統領一派、亡命中のボリビア モラレス前大統領、ペルーのウマラ元大統領などもっと疑わしい政治家は南米中に大勢いるのに、何故カルテス氏に白羽の矢が立ったのか?解明には時間がかかりそうです。

またエクアドル、チリ、ボリビアで始まった暴動が今週はコロンビアにも飛び火し、ついに首都ボゴタでも戒厳令が敷かれる事態に発展しました。日本からこうした報道を見ると、益々南米は危ないと思われてしまうかも知れませんが、現場を正しく判断することが重要です。現地に赴任している皆さんには、冷静な視点で情報発信をお願いしたいと思います。

「深刻な水位の低下」 12月1日発信

この週末、漸く雨らしい雨が降りました。しかし川の水位低下は深刻です。
https://www.abc.com.py/edicion-impresa/economia/2019/11/26/el-nivel-del-rio-paraguay-no-deja-de-descender-en-la-cuenca-del-pantanal/

この低水位による河川船舶の航行停止などによる損害は1億ドルにものぼると試算されています。
https://www.ultimahora.com/continua-el-drama-la-navegacion-n2857425.html

今日もアスンシオンは曇り、北西部のチャコ地方に雨雲が移動していますので、この降雨がシッカリ上流で降って川の水位を上げてくれることを祈ります。

「ラテンアメリカ」主要国の対中国債務」 12月1日発信

中国の中南米進出は目覚ましいものがありますが、中国の南米諸国に対する貸付額は以下のように相当額に登っており、これらが債務不履行になると中国だけでなく、世界経済に与える影響は極めて大きいと考えられます。今後ともフォローする必要があります。

「パラグアにおける巡礼の様子」 12月1日発信

一方、パラグアイでは毎年12月8日にアスンシオン近郊のCaacupé大聖堂で行われるミサに向けて各地から巡礼に向かう善男善女が道路を歩く姿が見られる季節になりました。
アスンシオン近郊のCaacupé大聖堂のGoogleMap

この巡礼に参加する若者たちの多くが、政治家の腐敗に不満を持っているとの報道がありました。
https://www.ultimahora.com/jovenes-recuerdan-politicos-que-el-pueblo-ya-esta-harto-n2857593.html

こうした動きは、マドゥロ集団などの恰好の標的になりかねませんので、政府のしっかりした対応が求められますが、パラグアイの現政権は若者達に指摘されるまでもなく、大統領の取り巻きのお友達政府と揶揄されていますので、そうしたコントロールを利かせられるかどうかは疑問です。パラグアイ川の水位だけでなく、パラグアイの経済活動を停滞させかねないので、お天気にも人々の気持ちにも干天の慈雨が必要になっています。

ところで、隣国ウルグアイで決選投票に持ち込まれた大統領選、24日の投票結果も大接戦でしたが中道右派の勝利で、15年ぶりに左派政権が野に下ることになり、左派が勢力を取り戻したアルゼンチンと好対照な結果となりました。永遠の中道パラグアイにとっては心強い味方が登場すると考えても良いかも知れません。

「パラグアイ大統領、トランプ大統領と会談」 12月15日発

パラグアイのMaritoことMario Abdo Benitez大統領が、米国のトランプ大統領と面談し、米国のトランプ大統領と面談し、政治的な後援を要請したと報道されています。

今回のホワイトハウス訪問で、Marito大統領が抱える多くの問題について語り合ったとされていますが、特に麻薬や資金洗浄といったパラグアイにまつわる悪いイメージを払拭するための支援や、畜産業界からのプレッシャーをかわすための算段や軍事支援にいたるまで、幅広いテーマで協議された模様です。

明確な報道はされていませんが、牧畜業界に対する大陸中国からの圧力や台湾との同盟関係継続についても真摯な話し合いがもたれたことは確実と思われます。

その中国ですが、ブラジル・アルゼンチン・ウルグアイといった大手牛肉輸出国に対して、大きなダメージとなる注文の縮小というニュースも入っています。
https://www.valorcarne.com.ar/china-se-desinflo-cancela-contratos-y-hay-problemas-de-pago/?sfns=mo

アルゼンチン発の記事によると、中国は年明けの旧正月用の備蓄が十分となった為に、発注を減らすだけでなく、既に決まっていた商談分への支払いも滞らせている模様で、豚コレラによる豚肉価格の高騰に引っ張られて急騰していた牛肉の国際価格が、世界の胃袋中国の負担となり、相場を引き下げるために需要サイドでブレーキをかけているのではないかと推測されます。

今週は懸案となってきたブラジルとの自動車部品関税問題が一定の解決を見せたとの報道もありました。昨年パラグアイで販売された10万台の自動車の6万5千台が中古車で、その六割が10年超(平均15年)のものだったとのことですが、環境対策の一環として、今後中古車に対する環境基準が設けられる模様で、黒煙や白煙を撒き散らして走る自動車が減ることになるのはありがたい話です。
https://www.hoy.com.py/negocios/otro-jaque-a-los-autos-chilere-plantean-verificar-los-vehiculos-antes-del-despacho?sfns=mo