連載レポート３３：統計に見るラテンアメリカ　その１
学習到達度調査（PISA, Program for International Student Assessment）ランキング　2018

連載エッセイ35

統計に見るラテンアメリカ　その１
学習到達度調査（PISA, Program for International Student Assessment）
ランキング 2018

執筆者：桜井悌司（ラテンアメリカ協会常務理事）

この調査は、OECD(経済協力開発機構)が、２０００年から３年毎に行う調査で、全世界の１５歳児童を対象に、「読解力」、「数学的リテラシー」、「科学的リテラシー」の３分野での成績をとりあげたもので、２０１８年度調査では、７９カ国・地域の児童が受験した。

これを見ると、ラテンアメリカ諸国の学力レベルは、平均より下回っていることがわかる。上位は、中国をはじめアジアの国々や欧米諸国が占めている。１位の中国については、北京、上海等限定した都市での調査なので、全国レベルとなると得点が下がることになろう。

この調査は、「読解力」、「数学的リテラシー」、「科学的リテラシー」の３部門からなるが、ラテンアメリカ諸国は、とりわけ、「数学的リテラシー」、「科学的リテラシー」の２部門では、相当低位にランクされていることがわかる。また２００９年以降、過去４回の調査のラテンアメリカ諸国のランキングを表４～表６をみても、低位に推移していることが理解できる。現状で推移するとすれば、改善は期待できず、悪化が懸念される。

ラテンアメリカ諸国の中で、常に上位にランクするのは、チリ、ウルグアイ、コスタリカ、メキシコである。キューバ，ベネズエラ，ボリビア、ニカラグアは，調査に参加していない。マイアミ・ヘラルド紙のオッペンハイマー氏は、２０１９年１２月１３日付けのコラムで、その点批判しており、反対に成績は悪いが参加しているパナマとドミニカ共和国を称賛している。なぜなら、国家が教育水準を改善するためには，生徒の学力を計る明確な診断が必要であるという理由からだ。
またそのコラムの最後で、下記のように述べている。
「世界で最も成功している国々は，生徒に求める学力も高い。私たちはグローバルな知識経済のなかで生きており，頭脳労働に対する対価はますます高くなり，ロボットが工場や農業，サービス業で担う業務処理量の増加に伴って，肉体労働への対価はますます低下している。私は，ラテンアメリカ諸国が政策の最重要課題として質の高い教育を掲げない限り，この地域が今よりもさらに貧しく不平等な社会になるのではないかと懸念している。」

国際協力機構（JICA）も、ラテンアメリカの児童の算数・数学能力の低さを早くから認識しており、とりわけ中米のエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア等に対して、小中等教育算数・数学指導力向上プロジェクトや算数・数学の学力向上を教科書開発を通じた国際協力を展開している。

在ドミニカ共和国日本大使館が行っているプログラムも、極めて興味深い。有名な東京理科大学の数学者、秋山仁教授の協力を得て、２０１７年１１月に、首都サントドミンゴ市の通信博物館の中に、「秋山数学博物館」をオープンした。秋山教授は、ドミニカ共和国各地で講演・指導された。その後、２０１８年９月から１０月にかけて再度、訪問し、PISAでの平均成績レベルを上げるための協力を行っている。これらのプログラムは、ラテンアメリカの教育、とりわけ算数・数学教育の向上に資するもので称賛に値するものである。数学博物館の設置は優れたアイデアと言えよう。今後、日本のODAについても、教育部門での地道な努力が望まれる。
表１　読解力　Reading ２０１８年

表２　数学的リテラシー(Mathematics Literacy) ２０１８年

表３　科学的リテラシー(Scientific Literacy) ２０１８年

PISAテストの成績のランキングの推移(ラテンアメリカ諸国、過去４回)
表４　読解力(Reading)

表５　数学的リテラシー(Mathematics Literacy)

表６　科学的リテラシー(Scientific Literacy)

以　　　　上