『大豆と人間の歴史 -満州帝国・マーガリン・熱帯雨林破壊から遺伝子組み換えまで』 クリスティン・デュボア - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『大豆と人間の歴史 -満州帝国・マーガリン・熱帯雨林破壊から遺伝子組み換えまで』 クリスティン・デュボア 


生産量、取引量とも世界最大の油糧種子である大豆は、世界で大量に生産され、食材、食用油のみならず家畜飼料としても大規模食肉生産に大きな役割を果たしている。
アジアにルーツをもち豆腐や発酵などの工夫も加えて食用として利用されてきた大豆が、大航海時代に欧州に伝わり、その後新大陸での栽培も始まり、日露戦争で軍用食として有用性が認められ、第一次世界大戦後にはマーガリンなど新たな利用法の開発もあって、戦時下の食料不足を補い、その生産地を押さえるための戦争を引き起こす要因の一つまでになった。大豆は家畜を肥やす飼料としても需要が拡大し、中国等アジアや北米、さらにアマゾン森林地帯を含むブラジル、アルゼンチン、パラグアイ等の南米で大規模に生産されるようになってきたのにともない、その生産地拡大は熱帯雨林の伐採拡大のみならず土地所有や自然環境破壊、また生産量増大のための遺伝子組み換えによる健康への懸念など新たな問題を引き起こしている。一方、新たな利用法の安価なたんぱく質としての代用食肉や再生可能エネルギー源としてのバイオマス燃料化も注目を浴びている。世界的に取り扱い量で大きな力をもつカーギル社等の大手商社や遺伝子組み換えで支配力を強める種子供給企業など、巨大ビジネスとなった大豆関連産業の登場などにも言及し、「大豆、南米を席巻する」という章も設けられていて、現代に至るまでの世界史の中での大豆の重要性を理解するために極めて有用な解説書である。

〔桜井 敏浩〕

(和田佐規子訳 築地書館 2019年10月 3,400円+税 ISBN978-4-8067-1589-4 )

〔『ラテンアメリカ時報』 2019/20年冬号(No.1429)より〕