『コロンビア商人がみた 維新後の日本』 ニコラス・タンコ・アルメロ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『コロンビア商人がみた 維新後の日本』 ニコラス・タンコ・アルメロ


 著者は1830年にボゴタで生まれ、ニューヨーク、パリで初等から高等教育と当時としては最高の教育を受け、保守党の政治家となったが、政治弾圧を受けキューバに亡命、製糖会社の管理職となって中国の代理店に派遣された。香港、マカオに滞在し一旦帰国した後、新妻をともなって1871年に米国経由で日本に渡り1か月あまり滞在、その後中国、東・南アジア、欧州を旅し、1888年にその後の再度の日本行きの経験も加えた旅行記をスペイン語で出版したものを、元駐コロンビア大使の訳者が紹介したのが本書である。
 著者が最初に日本を訪れたのは明治5年であり、未だ横浜~新橋間鉄道が開通する前に横浜から東京に行きそこから神戸まで旅行しているが、その間見聞した日本の地理、将軍の政権から維新政府に至る歴史と遷都された東京の様子、庶民の生活と女性の状況、頻発する火事、東京から中山道経由京都、大阪への旅路、神道や仏教などの宗教の起源と信仰、慣行や城郭、芸術、文学、言語、さらに教育制度から医療状況に至るまで、広範かつ緻密な観察を行っている。著者が中国でクーリー(出稼ぎ労働者)集めをする仕事に関わっていたことから、日本政府がペルーと外交関係を結ぶ契機となった横浜港でのペルー籍船での中国人クーリー虐待を国際法によって訴求したマリア・ルス号事件に、彼が絡んでいた可能性があるとの訳者あとがきでの指摘も興味深い。

〔桜井 敏浩〕

(寺澤辰麿訳 中央公論新社 2019年12月 223頁 2,400円+税 ISBN978-4-12-005254-5 )

 〔『ラテンアメリカ時報』 2019/20年冬号(No.1429)より〕