幾多ある中でも最も広く世界で使われているものの代表的な香辛料がトウガラシだが、米大陸に到達したモンゴロイドがメキシコ南部で紀元前7000年から料理に使っていた。原産地から早い時期に南米へも伝わり、インカ建国神話の中にも登場するが、スペイン人征服者によって欧州に伝達され、ポルトガル人によって瞬く間にアフリカ、南・東南アジア、中国、日本、そして朝鮮半島にまで、行く先々の土地に適した品種を生み出し、様々な郷土料理が作られ、中国では貧しい者も口に出来る食べ物と言われるまでに普及した。メキシコ料理の影響も受けた米国南部ではチリコンカンを生み出し、トウガラシソースは家庭ではもちろん米国で商業生産されるタパスコを含めカリブ海周辺産のホットソースは世界中で人々を魅了している。
世界がファーストフードという食のグローバリゼーションに支配された現在、トウガラシこそジャンクフードの解毒剤になると主張する、食物史に通暁した英国の作家による奥の深い香辛料トウガラシを多角的に論じた本書の“適度な辛さ”は大いに楽しめる。
〔桜井 敏浩〕
(秋山勝訳 草思社 2019年9月 312頁 2,000円+税 ISBN978-4-7942-2414-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2019/20年冬号(No.1429)より〕