個人支配体制、すなわち独裁体制を比較分析することによって、独裁体制の誕生から崩壊を体制変動の事例を比較することで、その政治現象を読み解く法則性を探究した研究である。まず個人支配体制とは何かを述べ、体制のクライアンテリズムによる持続と軍部・政党といったアクターを挙げ、社会経済構造の変動による体制崩壊の過程を解明し、軍部や政党への懐柔戦略など個人支配体制の枠組みを示す。続く本書の2/3の紙数を費やした個人支配体制の体制変動に関する事例比較では、反対派の政治参加を認めた独裁者としてフィリピンのマルコス、インドネシアのスハルトを、反対派と協定した独裁者としてニカラグアのソモサ王朝とサンディニスタ革命、パラグアイのストロエスネルと軍事クーデタ、一党独裁としてチャウシェスクとルーマニア革命、スペインのフランコの軍部・政党支配、北朝鮮の金日成と金正恩の体制維持、イランのシャー時代の支配、無党制型個人支配としてサウード家のサウジアラビア支配を挙げている。終章の「独裁が揺らぐとき」で体制崩壊の成否・形式を分かつ仮説を検証し、パトロン=クライアントネットワークの構築から崩壊までの過程の考察から、クライアンテリズムの構築と維持が独裁継続の鍵であり脆弱性を規定するという著者の結論を述べている。
ラテンアメリカについては、本書142頁から180頁をニカラグアとパラグアイでの独裁者についての分析に当てているだけだが、世界各地での独裁体制を知ることにより、将来また現れるかもしれない独裁の体制を考える上で、極めて意義ある研究書と言えよう。著者は上智大学大学院で国際関係論を学び、防衛大学校で本書の基となった博士号論文を著した気鋭の国際比較政治学者で、現在は駿河台大学法学部助教。
〔桜井 敏浩〕
(ミネルヴァ書房 2020年3月 312頁 5,500円+税 ISBN978-4-6230-8664-1 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年春号(No.1430)より〕