『生命の樹 -あるカリブの家系の物語』 マリーズ・コンデ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『生命の樹 -あるカリブの家系の物語』  マリーズ・コンデ 


カリブ海西インド諸島にあるフランス海外県グアダルーペの黒人中流階級に生まれ、フランスで高等教育を受け、西アフリカでフランス語教師として働き、後にパリ大学で比較文学の博士号を取り、大学教員の傍ら小説を書いてきた著者が描くグアダルーペのルイ家四代の物語。
 島を出た曾祖父アルベールが、パナマの運河工事を皮切りに北米のサンフランシスコで稼いで島の黒人中産階級にのし上がり、子どもたちはフランス「本土」に留学して専門職に就く者も出た。孫娘テクラについての、頭は良かったものの夢想と欲望のまま世界中を彷徨う物語りを軸として、一族それぞれが生き方を変えていく姿を描いているが、そこにはカリブのある家系史を通じて、出自のアフリカ、出身地のカリブ、働きに行った北・中米と文化的背景のフランス等の欧州に、同時にそしてそのすべてに所属しているという意識を常に持つカリブの人々の小さな場所から生まれた大きな文化衝突の姿を巧みに語る本書が、近年世界的に注目されるようになってきたカリブ海文学の代表作の一つと評される所以である。

〔桜井 敏浩〕

(管啓次郎訳 平凡社(ライブラリー891) 2019年12月 1,900円+税 ISBN978-4-582-76891-6 )

〔『ラテンアメリカ時報』 2020年春号(No.1430)より〕