2017年に襲来したハリケーン・マリアによって、プエルトリコは甚大な被害を受けた。輸入物資に過度に依存していたが故の公共サービスの機能停止、さらに近年の過大な債務返済のための緊縮財政による災害防衛機能の低下は、130年間にわたる米国政府との植民地的関係がこれら機能不全の背景にあることが露呈されたと、数十もの草の根活動団体が声を上げるようになった。一方でこれを機会に、法人税率が低く個人税制優遇策のあるプエルトリコに企業や富裕層を呼び込もうと考える知事等政府高官や銀行家、不動産開発業者たちが行動を起こそうとしていた。「訪問者経済」(極端に小さくした国家と元々住む住民数の最小化の下での経済)と、「災害資本主義」(自然災害やクーデタなどの混乱に乗じて、平常時では考えられないような急進的新自由主義改革。「惨事便乗型資本主義」とも訳されている)の拮抗である。2017年以前から行われてきた「ショック・ドクトリン」としての極端な緊縮政策の一環としての大学授業料の値上げ計画に対して、学生や教員が反対運動を起こしたことで政府側からある程度の譲歩を引き出していたが、ハリケーン・マリアの災害は事態を一変させ、復興の遅れは政府が公共サービスに関し限界まで弱らせてから売りとばす戦略があったと思わせるものがあった。被災住民がニューヨークやフロリダ等へ移動することを仕向けるように政府が陰に陽に支援したことから、路上で抗議する人たちを無くし土地を欲しがる外部の資本に「白いキャンバス」を提供するという目論見どおりになってきた。しかし、教育長官がハリケーンによる危険性を理由に閉鎖されたまま廃校にしようとしたのに対抗して、学童の保護者や教員が校舎を修繕し抗議活動を行って再開させ、食料の提供や瓦礫の片付け、電気や水道の復旧整備などを自主的に行う民間団体が発足し運動を開始するなどの動きも活発化してきた。しかし、ともすれば資本の動きの方が早く、時間との勝負になっているのが現状である。
著者はカナダのジャーナリストで、イラク戦争後の復興に群がる米国企業を批判した『ショック・ドクトリン-災害資本主義の正体を暴く』(岩波書店 2011年)、地球環境について論じた『これがすべてを変える-資本主義vs. 気候変動』(同 2017年)の著作がある。
〔桜井 敏浩〕
(星野 真志訳 堀之内出版 2019年4月 141頁 1,600円+税 ISBN978-4-909237-39-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年春号(No.1430)より〕