ブラジル北東部ペルナンブーコ州のカルナヴァルを彩る代表的な民衆芸能の一つフレーヴォ(Freovo)-「シンコペーションをともない、性急で浮き立つようなリズムを主要な特徴とする行進曲」は、ブラジルの無形文化遺産に、2012年にUNESCOによって人類無形文化遺産に登録された。フレーヴォのダンスをパッソといい、指導する学校と文化施設が設立され、2016年8月のリオデジャネイロ・オリンピックの開会式においてもフレーヴォの演奏とパッソの演技が披露されたことでも知られるようになった。
本書は、民衆のカルナヴァルでの行進曲に始まるフレーヴォの誕生から、パッソが格闘技カポエイラの進退動作から派生したという関係を確認し、パッソというダンスをカルナヴァルとは異なる脈絡で実践することに道を拓いたナシミエント・ド・パッソことフランシスコ・ド・ナシミエント・フィリョに着目し、その経歴、パッソの踊り手パスィスタとして、また指揮者としての経歴、彼の指導法と影響、パッソの実技の実際、フレーヴォの継承に向けた市立学校とナシミエントのパッソの教え子による「パッソの戦士たち」の取り組みを紹介し、その背景にあるアフリカ系経済的貧困層の存在を示唆している。
著者はスポーツ人類学・舞踏学を専門とし、レシーフェにおける1年間の研究調査の成果を中心に纏めた、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に提出した博士号申請論文。現東京学芸大学教育学部教授。
〔桜井 敏浩〕
(渓水社 2019年12月 248頁 3,900円+税 ISBN978-4-86327-496-9 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2020年春号(No.1430)より〕