連載エッセイ56:「南米南部徘徊レポート」その8 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ56:「南米南部徘徊レポート」その8


連載エッセイ55

「南米南部徘徊レポート」その8

執筆者:硯田 一弘(アデイルザス代表取締役、パラグアイ在住)

4月12日発 パラグアイのイースターとコロナウイルスの動向

Semana Santa=イースターの日曜日を明日に控え、今週は本当に静かな一週間でした。移動制限は先週よりも更に強化され、市と市の境界では軍の兵士が検問を行う厳しさ。またイースター当日である12日までとされていた外出禁止令は更に一週間延長されて19日までとなりました。

昨日は隣市にあるスーパーに日本米と納豆の買い出しに行ったものの、キリスト受難の日である聖金曜日という事で休み。ずっと休み状態が続いていたので肝心の宗教祭日を忘れていました。

今週は銀行も窓口業務を停止してオンラインバンキングとATMだけが稼働していました。新聞も発行が止まり、各社とも電子版のみの対応になっていました。印刷版の代わりにしっかりしたデジタル紙面作りをしたのがLa Nacion紙です。
https://www.lanacion.com.py/tapa/2020/04/11/edicion-impresa-11-de-abril-del-2020/

一方、新型コロナの猛威は今週も収まらず、日本でもついに行動制限が発せられましたが、パラグアイは外出規制が始まって1カ月が経過、全国で感染者が133人、亡くなった方が6人、回復された方が18人となっています。

地域別には以下の地図の様な状況で、首都アスンシオンと周辺地域だけで106人=約80%と、ほぼ人口密集地域に集中して発生している事が判ります。

この表では、世代別の罹患者の状況も示されていて、諸外国とは異なり60歳以下の患者が90%近くを占めているように見えますが、これはパラグアイの人口比が60歳未満が90%である為です。パラグアイの人口ピラミッド 未成年が全人口の38%!

4月19日発  コロナウイルスの動向 中国から支援物資がジャンボ―機で

19日までとされていたパラグアイの外出禁止令、更に一週間延長されて26日まで、と昨日発表されました。木曜から金曜にかけて25人も感染者が一気に増えて、今朝の時点で感染者202人となったとのこと。同じ人口規模(700万人前後)の千葉県(630人)・埼玉県(590人)より遥かに少ないのですが、 安全サイドに立った判断をしたようです。 日本より遥かに早く3月11日からの禁足令のですから、もう40日近く幽閉生活を強いられており、来週からはマスクを着用すれば外出オッケーになると期待していただけに、この延長発表は正直言ってガッカリです。

アスンシオンの空港を離発着する定期便もなくなり、屋上での朝夕の運動中に飛行機を見なくなって久しいのですが、今朝は珍しく大型機が着陸する音がしました。空港とは10㎞ほど離れているのですが、交通量が少なくなった今でなくてもジェット旅客機着陸時の逆噴射の音は結構しっかり聞こえてきます。で、今朝のジェット機はなんとアスンシオンでは滅多に観ない747ジャンボの貨物機。中国(香港)からの支援物資41トンを運んで遥々やってきたとのことで、今朝の新聞電子版は各紙こぞってこのニュースをトップに掲載していました。

https://www.abc.com.py/nacionales/2020/04/18/llega-avion-carguero-con-41000-kilos-de-insumos-hospitalarios-para-hacer-frente-a-la-pandemia/

昨夜パラグアイ議会上院で中華民国(台湾)との国交を断って中華人民共和国(大陸)との国交を結ぼうという議案が否決されました。パラグアイ国内には、人口の少ない台湾との国交よりも人口が多くカネのありそうな大陸中国との関係を重要視する動きがありますが、小国パラグアイの価値は南半球の中で唯一大陸の経済的支配を拒否している点にあることをもっと多くの国民が認識すべきです。

貨物機のボディに書かれた「年年有魚」って中国語で「お金が沢山ある」という意味なのだそうですが、カネにモノを言わせた貢物外交にパラグアイ政府がなびかないことを期待します。

今回のコロナ騒動を誰が始めたか?という犯人捜し的な話題もありますが、寧ろ起こってしまったパンデミックと如何に向き合うか?が重要です。大量生産・販売・消費・廃棄という今までの経済の流れを一気に変えると考えられる現在の世界経済凍結後に、食糧の重要性が再評価されることになると、食糧自給率40%以下の日本は、340%のパラグアイを頼る時代がやってくると確信しています。

それと、外出できない状態をリラックスしてもらうようにパラグアイでもYoutubeに色々な投稿が観られますが、いきなり大統領が登場するこの作品をご紹介します。

誰かが忖度したのか判りませんが、自宅で待機することを呼びかけた大統領の写真は公表されて一か月以上経過していますが、炎上したとの情報は入っていません。

4月26日発 コロナウイルスの動向と近隣諸国の為替の動き

一か月前に検疫を示す言葉cuarentenaは、検疫の日数が40日であった事が語源であるとお伝えしましたが、3月16日に始まった外出禁止の移動制限は、本日で41日目を迎えました。(ABC紙によると、Cuarentenaは、3月11日に発せられたそうで、そうすると今日は46日目) https://www.abc.com.py/

いずれにしても、当初の予想を遥かに超えた長期の軟禁生活を強いられることになって、多くの市民から不満の声があがっています。しかし、感染拡大予防を最優先するアブド・ベニテス大統領率いる現政権は厳格な外出禁止を更に一週間延長して5月3日までとし、5月4日からは知的検疫期間”Cuarentena Inteligente”を導入し、感染懸念の少ない業種から順次活動再開を許可する方針を発表しました。

これによると、5月4日以降は業種によって第一から第四までの段階を導入、4日に始まる第一段階は製造業や建設業、5月25日の第二段階は面積800㎡未満の商店や少人数を相手にしたサービス業、6月15日に始まる第三段階は800㎡以上の商業施設(食堂街=フードコートは不可)や運動施設の営業を許可、しかし、飲食業などの不特定多数が集まる業種の営業再開を許可する第四段階の解禁時期については未定としています。

しかし、多くのサービス業従事者が食堂等の飲食関係で仕事をしており、いわゆる社会的弱者が仕事に復帰するのに不適切な計画であるように感じられます。
ただ、政府はPytyvõと名付けられた弱者救済策を講じ、最低賃金(月Gs.2,192,840=約37,000円)レベルの収入の国民に対しては、賃金の四分の一に相当するGs.548,210=約9,250円を直ちに支給する仕組みを今月初めから実施しており、不満の緩和に努めています。以下はその手続きを紹介した報道ですが、受給対象者はネットで自分の身分証明書番号や住所などのデータを入力、顔写真や身分証明書の表裏を写真に撮って送るだけで手続きが完了するというもの。

さて、世界中がコロナ報道一色となっていて、経済関連もコロナ失業に関するものが中心、その他の分野では何がどう動いているか判りにくくなっています。
昨日、ブラジルの法務大臣が辞任したことで、ブラジルの通貨Realが大幅に下落しました。https://www.nikkeyshimbun.jp/2020/200425-11brasil.html

また、ブラジルに次ぐ南米の大国アルゼンチンがいよいよデフォルトに向けてカウントダウンに入った状態であり、昨年11月の左派政権復活以降不思議と緩やかな下落に留まっていた為替が急落する危険性を孕んでいます。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-06/Q8DCETDWRGG601

ここで改めて過去10年間の南米主要通貨の対米ドルレートの変化を観察してみると、主要通貨ではありませんがパラグアイGuaraniがペルーSolに次いで安定した通貨であることがご理解頂けます。
ブラジルReal 下落率:3.65倍
アルゼンチンPeso 下落率:17.19倍
チリPeso 下落率:1.88倍
パラグアイGuarani 下落率:1.77倍
ペルーSol 下落率:1.34倍
コロンビアPeso 下落率:2.32倍

かつてはブラジルがくしゃみをするとアルゼンチンが風邪を引き、パラグアイが肺炎になる等と言われた時期もありましたが、新型コロナを発端とした経済的負の伝染病に関しては、いち早く予防措置を取ったパラグアイが免疫力を発揮している様にも思われます。

ただ、パラグアイ以外の南米諸国で大きな貸付をしている中国が、アルゼンチンやベネズエラで発生しうるデフォルトに直面すると、更なる世界的混乱が生じるリスクは極めて高いものと懸念します。

隣国アルゼンチンでは26日まで外出禁止が延長されていますので、パラグアイが19日までで収まるかどうか判りませんが、20日以降は布マスクの着用を義務付けるとの政府指示が発せられました。
https://www.lanacion.com.ar/sociedad/cuando-termina-cuarentena-que-se-sabe-al-nid2352501

ということは、20日以降は布マスクをしていれば外出は可能になる可能性あり、少し明るいニュースです。

5月10日発 コロナウイルスの動向 一部の業種が再開

今週は新型コロナの外出禁止令にCuarentena Interigente=知的検疫という新たな定義が加えられ、一部の業種が再開できるようになりましたが、市と市の境には軍が検問を張って特にアスンシオンに入ってくるクルマをチェックするなどの措置は続いています。感染者の数もこの一週間の間にブラジルからの帰国感染者が検知されたことで一気に倍増、先週金曜日に266人だったものが今日は563人となっています。(回復者152人、死者10人)

日本でも報道されている通り、ブラジルは感染者の数が急増しており、今や世界の感染拡大の中心地に見なされていることから、本日のLa Nacion紙一面トップはアブド・ベニテス大統領がブラジル国境封鎖を続ける判断をしたと報じています。
https://www.lanacion.com.py/politica_edicion_impresa/2020/05/09/mario-abdo-benitez-rechaza-abrir-la-frontera-con-el-brasil/

こうなると、まだ暫くは物流の完全再開は望めそうもありませんが、実はコロナ以外にも物流を停滞させる要因が発生しています。年間1500万トンの物流量を誇るパラグアイ川(下流でラプラタに合流)の水位の低下です。

この表でもお分かりの通り、過去10年でも数回しか発生していない異常な低水位に陥っています。昨年の11月にも発生した低水位、半年で再発生というのは過去に例のない大問題です。
https://www.ultimahora.com/hay-800000-ton-soja-varadas-puertos-y-barcos-n2884297.html

これによって1000万トンの豊作を喜んでいた今年の大豆が80万トンも出荷できずに停滞してています。艀に積んだ商品だけでも20万トン!これが低水位で川を航行できない為に足止めを食らっている訳です。搾油用を除くと大豆として輸出されるのは700万トン、一割以上が滞貨しているのは異常事態。現時点で収穫されていない作物もあるようですので、この停滞は非常に厳しいダメージを与えそうです。

ちなみに、世界の大豆生産量トップ10カ国のうち、5カ国は南米、ブラジル・アルゼンチン・パラグアイ・ボリビア・ウルグアイの合計量1.57億トンは世界の総生産量約3.2億トンの半分、これに北米の米国・カナダを足すと9割に近い量が米州大陸で生産されていることが判ります。
https://www.worldatlas.com/articles/world-leaders-in-soya-soybean-production-by-country.html

こうした重要な作物の物流が滞ると、今後世界的に需給バランスが崩れ、瞬間的なモノ余り=価格下落と長期的なモノ不足=価格上昇が発生することが危惧されます。

世界経済を座礁させないためにも、感染予防対策だけでなく食の物流正常化に向けた重要なタイミングになっている事を各国が認識して対策を講じないと、マスク不足ところではない大問題が発生します。

因みに渇水による水位低下はパラナ川水系でも発生していて、有名なイグアスの滝も渇水状態です。
https://www.biobiochile.cl/especial/aqui-tierra/noticias/2020/05/08/cataratas-del-iguazu-estan-casi-secas-y-panorama-se-ve-aun-peor-para-los-proximos-meses.shtml

5月12日発 最近のドルと南米諸国の通貨の関係と投資機会

ドルと南米通貨を比較すると皆相当ダメージを受けた印象がありますが、逆に考えると今こそが投資に最適のタイミングと捉えることも可能です。
リーマンショックから立ち直った日本の会社がブラジルに投資を仕掛けたのは1レアル45円前後の頃でしたが、今は20円以下です。

パラグアイ・グアラニは今後周辺国への同調=為替下落が生じる可能性もあるので少し様子を見るべきかも知れませんが、ブラジルやアルゼンチン等からの投資が静まっている状況なので、グアラニが下落すると素早いタイミングで世界中から投資が集まると思われます。

日本円が米ドルに対して一割強くなったとして96円/US$、逆に一割安くなると118円。南米南部諸国への投資のタイミングとしては、2011年頃の円高投資ブームの様な誰でも彼でもイケイケのムードではなく、知見を蓄えた経験のある会社だけが追加投資に踏み切れる好機であろうと思量します。食糧に関連した事業での安全確保のための投資が効果を発揮すると思われます。

確かにコロナ禍が始まって以降のブラジル・レアルの下落ぶりは目を覆うばかり。一方で変に持ちこたえているのがアルゼンチン・ペソですが、今月22日に利払いが出来なければ、本当のデフォルトになり通貨の暴落が発生すると思われます。
http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKBN22M0VD.html

既にブラジル・レアルが史上最低水準に下落していることで、パラグアイの加工貿易製品は相対的に価格競争力を失っており、これに加えて新型コロナによる物流の停止が続き、またアルゼンチン・ペソの価値が更に下がるとパラグアイのマキラドーラ政策は大きな転換を余儀なくされるか、通貨の人為的引き下げを余儀なくされると考えられます。

目先の注意点は前述の通り、22日にアルゼンチンの債務不履行に陥るかどうか?ですが、通貨が弱くなっていることは輸出競争力が上がっていることでもありますので、今発生していることを常に前向きな可能性として如何に対応するか?が重要と考えます。