近現代の危機を生き抜き、変化をもたらした政治リーダー 8人として、英国のサッチャーとブレアの間で保守党から首相になったメージャー、東西ドイツの統一を成し遂げた連邦共和国首相のコール、EUからの英国離脱交渉を担当したベルギー首相フェルホフスタット、欧州の辺境から世界的に活躍したアイルランド首相ヴァラッカー、イラク戦争時の英国首相ブレア、ドイツ統一時のフランス大統領ミッテラン、ソヴィエト連邦解体の前後に大統領を務めたエリツィンとともに、IMF理事の後1952~70年の間三代の大統領の下で中央銀行のメキシコ銀行総裁を務めたロドリーゴ・ゴメス(1897~1970年)が取り上げられている。207~236頁にわたる論考の執筆は岡部恭宣東北大学教授。
メキシコ経済の危機に克服努めたゴメスのソーシャル・キャピタルの下でのメキシコの制度的構造要因と資質的要因を活用することで安定的な経済成長を実現した、彼個人の資質によって作り出されたリーダーシップ面と環境の相互作用までを論じている。
中銀総裁に就任後、人材育成、組織の結束を図り、民間セクターや国際金融機関との橋渡し、財務省との連結ネットワーク構築を駆使して、1950年代から60年代にかけての「メキシコの奇跡」と呼ばれたインフレなき経済成長と為替安定、「安定的成長」を実現したゴメス総裁のリーダーシップを描いている。
〔桜井 敏浩〕
(高橋 直樹・松尾 秀哉・吉田 徹編 岩波書店 2019年10月 252頁 4,500円+税 ISBN978-4-00-001087-0 )