著者ビュイッソンは、フランスの『フィガロ』誌の副編集長で、歴史テレビチャンネルで司会も務めており、エシュトは『独裁者たちの最期の日々』(原書房 2017年)など独裁についての歴史研究家でもあるジャーナリスト。古代から現代まで大きな志をもって支配しようとしたが敗れた人物を上巻・下巻で各13人取り上げ、彼らの虚栄心、プライド、軽悔や慢心、自信過剰、大きすぎた野心の一方で持っていた内面にあった優柔不断、弱さ、性格の欠陥などについて説明しようとした評伝。
ラテンアメリカからは唯一第12章に「チェ・ゲバラ -伝説となったある男の最後の転落」を取り上げている(P.161~192)。フィデル・カストロ兄弟等とともに戦って革命を成し遂げ、革命政権の行政に参画したが、その後キューバを離れ、アフリカを経てボリビアで軍事政権軍に捕まり1967年に銃殺された。「チェ」ゲバラは、その後欧米等の若者によって意思と行動を貫いた革命の英雄のシンボルとして現在に至るまで崇敬され続けている。
1966年にゲバラはキューバでリーダーとなる15人ほどに軍事訓練を行った後、ボリビアに潜入して1966年末に南東部で50余名の部隊で革命のための行動を開始したが、ボリビアの労組や共産主義者、農民の助力は得られず、裏切り者・脱落者が次々に出た。1967年3月にはボリビア軍が本格的に反撃を開始し、米国はベトナム戦争の最中だったにもかかわらず反ゲリラ戦に特化した特殊部隊結成のために教官を派遣し、ボリビア軍事政権を支援した。半年間余山岳・密林地帯の中で追い詰められ、ゲリラ部隊は満身創痍の17人に減り、ついに負傷して10月8日に特殊部隊に拘束され、翌日ラ・イゲーラ村で射殺された。
本書では、ゲバラの青年時代からカストロとの出会い、革命戦争の日々、革命政権成立後を辿っているが、次第に先鋭的な政策を主張して実社会での革命の実現と米国からの圧迫からソヴィエト連邦寄りとなってきたカストロとの乖離が大きくなり疎まれるようになって、体よくキューバを出るように仕向けられアフリカのコンゴでの失敗の後、最後のボリビアでの革命という予定された自殺的行為に向かったのである。ここでもゲバラの計画性や情報分析力の欠如、状況の直視や他人の助言を受け入れない自信過剰など、歴史の敗者に共通する欠陥が有ったと著者は指摘している。
〔桜井 敏浩〕
(ジャン=クリストフ・ビュイッソン、エマニュエル・エシュト 清水珠代・村上尚子・濱田英作訳 原書房 2019年9月 227頁 2,000円+税 ISBN978-4-562-05684-2)