連載エッセイ58:家族で楽しむ商工会議所活動 ブラジル日本商工会議所のケース - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ58:家族で楽しむ商工会議所活動 ブラジル日本商工会議所のケース


連載エッセイ57

家族で楽しむ商工会議所活動
ブラジル日本商工会議所のケース

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

海外には、日本商工会議所が数多くある。ラテンアメリカでも、メキシコ、チリ、ブラジル、アルゼンチン、ペルー等の日本商工会議所も積極的に活動している。海外での日本商工会議所と言えば、一部例外を除き、進出日本企業や日系コロニアの企業の集まりで、毎月定例昼食会が開催され、業種別の部会がある。商工会議所の主たる目的は、当該国のビジネス環境の改善のために、現地政府に提言したりすることであるが、日本の商工会議所は、会員間の親睦に力を入れているケースが多い。

私は、ジェトロの職員として、メキシコシティ、チリのサンテイアゴ、イタリアのミラノ、ブラジルのサンパウロに駐在した。その間、可能な限り、商工会議所の活動に参加し、協力するようにした。特に力を入れたのは、商工会議所の活動の中に、家族そろって楽しむというプログラムを導入することであった。なぜなら、駐在員のご夫人や家族にも会議所の活動につき理解してもらいたいと考えたからである。

「ミラノでの世界遺産ツアー・プログラム」

チリのサンテイアゴで家族そろってのソフトボール大会をみんなで協力して、初めて組織したことについては、前回のエッセイで紹介した。イタリアのミラノでは、在イタリア日本商工会議所の事務局長を兼務していた。セミナー・講演会には、塩野七生さん、曽野綾子さん等有名人をお招きした時には、多数のご夫人方にも参加していただいた。また、世界遺産に関心があったので、ミラノ近郊にある2つの世界遺産の見学バスツアーを組織した。この2つの世界遺産は、クレスピ・ダッダとヴァル・カモニカの遺跡である。イタリアと言えば、世界遺産登録数では、中国と並び世界一であるが、この2つの世界遺産は、ミラノのすぐ近くにあるにも拘わらず、ほとんどの駐在員の間で知られていなかった。クレスピ・ダッダは、19世紀に、理想のユートピア的工業都市を作り上げようとしたイタリア人企業家の夢の跡で、ヴァル・カモニカは岩に掘られた古代の人々の彫刻群である。クレスピ・ダッダに詳しい、私の秘書の有川道子さん、ヴァル・カモニカに詳しい画家の松山修平さんにも同行していただいた。そして、1999年7月17日(日)に商工会議所主催のバスツアーを組織した。40名を超える参加があり、ご夫人方にも珍しい世界遺産を見学し、知識を豊かにしていただいた。

「サンパウロでの家族揃ってのプログラム」

サンパウロ駐在時代に、在ブラジル日本商工会議所のコンサルテイング部会会長、、2005年度には常任理事を務めさせていただいた。ここでは、2005年~2006年にコンサルテイング部会主催の3つのバスツアーについて紹介したい。企画に当たっては、常に会議所事務局長の平田藤義氏の絶大な協力を得ることができた。

1) 東山農場見学・シュラスコ・ツアー(2005年6月5日)
http://jp.camaradojapao.org.br/news/visitas-externas/?materia=5773
http://jp.camaradojapao.org.br/news/visitas-externas/?materia=263
 
サンパウロから120キロ離れたところに有名な東山農場がある。三菱財閥の創始者の岩崎家の所有の大規模農園である。この企画を考えたのは、三菱系の企業や大手商社の人々は、農園によく出かけるが、多くの駐在員やコロニアの方々は必ずしも訪問したことがないこと、農園では、良質のコーヒー等が栽培されているが、ちょうど収穫期に当たったこと、また意外にコーヒーの木や実について実際に触ったり味わったりした経験のある人が少ないこと、タイミングよくNHKの開局80周年記念で制作された連続ドラマ、「ハルとナツ 届かなかった手紙」の撮影現場であったこと等の理由からである。会議所のコンサルタント部会とブラジルを知る会(清水裕美代表)との共催で実施した。

ツアーは、2005年6月5日に行われ、3台のバスと自家用車に分乗して、134名〈内、12歳以下の子供たちが44名〉が参加した。人数が多すぎることもあり、農園の社長の岩崎透氏は、当初、受け入れが困難ということで難色を示されたが、無理をお願いし、引き受けていただいた。参加費も岩崎社長とバス手配会社に破格の価格を提示していただき、参加しやすいようにした。

当日は、午前8時半に集合であったが、一人の遅刻も無く、予定通りの出発し、10時半には、東山農場に到着した。農場では、岩崎透社長以下スタッフの総出の歓迎を受け、手作業によるコーヒーの選別作業、乾燥場、図書館、博物館、昔の奴隷小屋、広大な農場を見学した。子供たちは、コーヒー豆を触ったり、味わったりした。「ハルとナツ」の撮影現場では、綿の生産のシーンがあるが、その際の苦労話などを詳細に説明いただいた。

その後、東山農場による特製シュラスコを全員で味わった。岩崎社長がサンリオ社と関係があったことから、子供たちには、特別にサンリオのぬいぐるみのプレゼントというサプライズもあり、大喜びであった。詳細は、上記ウエブで見られるが、会議所のホームページには、「会議所78年の歴史に残る新しいページを開く企画」と紹介されている。


手作業によるコーヒー豆の選別風景

2) MNプロポリス社見学ツアー(2005年11月19日)
http://jp.camaradojapao.org.br/news/visitas-externas/?materia=265

 日本人へのブラジルのお土産の筆頭はコーヒーであるが、蜂蜜から生産されるプロポリスも人気を集めるお土産である。ブラジルの代表的なプロポリスメーカーであるMNプロポリス社の松田典仁社長と仕事上の関係があったところから、一緒に食事を共にする機会があった。その時に、商工会議所の会員企業対象のプログラムを紹介し、もし可能であれば、MNプロポリス社の工場を見学させていただきたいとお願いしたところ快諾していただいた。

 2005年11月19日に実施すべく案内を出したところ、60名が参加することになり、バス2台で出かけた。訪問先は、2つあり、最初は、モジ市のコクエラ区にある茶製造工場跡(カサロン・デ・シャー)で、連邦政府の文化財に指定された建物である。中谷市文化保存審議会委員から工場の歴史、建物の建築様式、特徴などについて詳細な説明を受けた。

 その後、MNプロポリス社を訪問し、松田社長以下スタッフの皆様に大歓迎を受けた。松田社長から、会社の概要、経営哲学、仕事に対する姿勢などの話を伺い、キャップをかぶり、エアーシャワーを浴びて、プロポリス工場の見学を行った。プロポリス製造工場に続き、キャツサバからつくる焼酎工場、はちみつ製造工場、アガリスク製造工場、製品分析工場を見学した。

 昼食は、工場内で、松田社長が用意した巻き寿司、おにぎり、サラダ、おつまみ、シュラスコ、ビール、ワイン、焼酎が振る舞われ、参加者は舌鼓を打った。お別れ時には、参加者にお土産までいただき、企業側のおもてなしに感激した。


MNプロポリス社の松田社長の説明を聞く参加者たち 

3) サンパウロ郊外花卉栽培見学ツアー(2006年3月5日)
http://jp.camaradojapao.org.br/news/visitas-externas/?materia=268
http://jp.camaradojapao.org.br/news/visitas-externas/?materia=267

文協〈ブラジル日本文化福祉協会)の副会長として活躍されていた杓田美代子さんの実家が胡蝶ランの農園を経営しておられるとのことで、お願いしたところ、快諾され、3か所の訪問先のアレンジもやっていただいた。帰国直前の2006年3月5日に、「サンパウロ郊外花卉栽培見学ツアー」という名目で実施した。西林総領事を含む43名の参加があった。最初の訪問先は、コチア郡カウカイア・ド・アウトの木村農場で、切花のハウス栽培を見学した。その後、杓田胡蝶ラン園第1農場のラボおよび飼育棟、杓田胡蝶ラン第2農場を訪問した。胡蝶ランと言えば、日本では、お店の開店祝いなどで見られる高級な花であるが、見渡す限り、色とりどりの胡蝶ランに参加者は感嘆の声を上げていた。

シュラスカリアでブラジル料理の肉料理を堪能した後、最後の訪問先は、松迫農場のハウス水耕栽培場で、見事なレタス、セロリ、大根、ネギやクレソンが栽培されていた。日本移民がブラジル農業に貢献している一端を見学できた。またお土産に沢山の野菜を頂いき、大変有意義で楽しい見学会となった。

以上3つのプログラムを紹介したが、私の帰国後にも継続して、「東山農場訪問」(2007年6月)、「焼酎・梅酒蔵元MNプロポリス訪問」(2007年10月)に後任者に実施していただいた。


大根等野菜や花のおみやげでいっぱい

4) 駐在員とその家族に対する情報提供

駐在の終了時に、各地の駐在員やその夫人を対象に、「駐在生活の楽しみ方」というテーマで報告会・講演会を開くのを常としていた。サンテイアゴでは、駐在員夫人の集まりである「コピウエ会」メンバー40名を対象に行い、ミラノでは、イタリア日本商工会議所のセミナーの一環として、2回に分けて行った。

サンパウロでは、ブラジル日本商工会議所・ブラジルを知る会・BUMBAの3者共催で、2006年2月1日に、国際交流基金のサンパウロ事務所会議室で、「サンパウロで駐在生活を楽しむには」というタイトルで、セミナーを開催した。サンパウロ州・市の観光局からバッグやパンフレットを大量に入手し、10レアルの参加費を徴収した。100名を上回る参加があったが、半数以上は夫人たちであった。

 開催理由は、各地で少しずつ異なるが、共通して言えることは、多くの駐在員が駐在生活を十分にエンジョイしていないことである。単身赴任であるとか、ご主人がゴルフに夢中で家族を十分にアテンドしないとか、子供が小さいので自由に動けない等の理由からである。サンパウロには、見るものが何もないあるいは少ないと思っている駐在員が多かった。

ブラジルは駐在期間が2年5か月と短いものであったが、土曜や日曜には、家内と極力出かけるようにした。サンパウロでは、ショッピング、食べ歩き、テアトロ・ムニシパルやサラ・サンパウロでのオペラやコンサート、テアトロ・アブリルでのミュージカル鑑賞をエンジョイできる。日系コロ二ア社会は数多くのイベントを組織してくれる。「日本フェステイバル」、「アチバイヤの花とイチゴの祭り」、「桜まつり」などの郊外で行われる大規模なイベントには積極的にして出かけるようにした。文協の大ホール等では「紅白歌合戦」、「全国民謡大会」、「カラオケ大会」、「全国太鼓大会」、「よさこいソーラン」もやってくれる。「全国民謡大会」に2日間通えば、北は北海道から南の沖縄までの民謡を鑑賞できる。日本でもそのような機会はほぼ皆無である。博物館や美術館にしても、欧米の有名な博物館や美術館とは規模、内容において比較すべくもないが、それなりに楽しめる。ブラジルのサッカーやバレーボールも大いに楽しめる。他にも、習い事もいろいろある。

下記資料は、その時のセミナーの際に、配布したものである。以下紹介する。

「サンパウロでの駐在生活を楽しむには」
http://jp.camaradojapao.org.br/brasil-cotidiano/info/dicas/

それ以外に、下記の2つの資料を作成し、会議所のホームページに掲載してもらった。

「パウリスタ界隈ガイド」 パウリスタ通りにある建物、ショッピングセンター、映画館、有名な建物、モニュメント、彫刻等の説明である。
http://jp.camaradojapao.org.br/brasil-cotidiano/info/dicas/?materia=250

「サンパウロ主要通りの由来」  日本人駐在員が住んでいる通りの由来を、人名、歴史上の日付や出来事等に分類したもの。
http://jp.camaradojapao.org.br/brasil-cotidiano/info/dicas/?materia=249